多摩六都科学館で対話型アート鑑賞 アートとサイエンスは仲良し
3月に開館25周年を迎える多摩六都科学館は1月27日、「西東京市民感謝ウイーク」のイベントとしてとして「対話型アート鑑賞」を実施した。科学館でアート鑑賞。一見ミスマッチなこの企画はどう実現したのか-。西東京市のボランティア団体「アートみーる」で活動する卯野右子さんの報告です。(編集部)
◆ 科学館で美術鑑賞?
「対話型アート鑑賞」を提案・企画した科学館の研究・交流グループリーダー高尾戸美さんに話を聞くと、「科学館で美術鑑賞?」という反応は、館の内外で同じだったと言う。展示だけでは伝え切れないことでも、プログラムや人が介在して初めて伝えられることがある。従来とは違った切り口から科学に接するための企画を、まず職員に理解してもらう必要があった。昨年秋、対話型の美術鑑賞を広めているNPO法人ARDAから講師を招き、対話型アート研修会を通して美術鑑賞がどう科学と繋がるのかを説明した。
ものをよく見るという原点に戻る。科学では知識を教え伝えることに重きが置かれがちだが、「面白いなぁ」「不思議だなぁ」という気持ちを大切して、もっと自由にものをみるという体験につなげたいという思いがあった。
◆ よく観察する
対話型アート鑑賞とは、講師が一方的に知識を授けるのではなく、参加者と対話しながら、作品を見て気がついたこと、感じたことを共有しあう鑑賞スタイル。西東京市の市民団体「アートみーる」がファシリテーター兼サポーターを務めた。団体名の “みーる” には “よく見る” のほか、英語の ミール (Meal)、食事を “よく味わう” 意味も込められている。
開催当日、初対面同士の参加者の緊張を和らげるためのアイスブレイクからスタートした。まず、カードを丸くなって見る。カードには科学館で観察できる生き物が描かれていた。
「これは何かな?」「セミ!」
「これ見たことある?」
「地球の部屋」と「自然の部屋」の展示から、スズメやカマキリ、オナガドリ、カブトガニなど現在も自然界で見られる動物や、すでに絶滅したウミサソリ、アンモナイトが選ばれていた。多摩六都科学館が大好きでよく来館するという小学生は、カードの動植物をすべて言い当てた。
少し慣れて話しやすい雰囲気になったところで、貝殻、木の実、多摩川から採集された石を使い、実物に触れてよく観察する体験が始まった。石や貝の形、模様をよく見、表面のつるつる、ざらざらの触り心地を楽しみ、重さや冷たさを感じる。巻貝を手に取り耳にあてている子。コナラのドングリは音がしないのに、クヌギのドングリはからからと音をたてることを発見した子もいた。
◆ 対話型アート鑑賞の醍醐味
鑑賞絵画に “アートみーる” が選んだのは、日曜画家として知られるフランスの画家アンリー・ルソーの『夢』と、スペイン生まれの女性画家レディオス・バロの『無重力現象』の2作品。『夢』にはたくさんの動植物が描かれ、科学館の展示物でみられるものもある。『無重力現象』のモチーフである天文学者と天体も、科学館の宇宙の展示物や、最も多くの星を投映するとして世界一に認定されたプラネタリウムとリンクさせる工夫があった。
「この絵の中でなにが起こっていますか?」「どこからそう思うの?」「他に発見や、感じたことはありますか?」
ファシリテーターの笑顔の問いかけに、最初はおとなしかった子どもたちも、次第に気がついたことを話し始める。
「なるほど、そういう見方もあるのか!」「私もそう思っていた」「いや、そうは見えない」…。
いろいろな視点、考え方があると気づく瞬間。一つの絵をじっくり見て、他人の意見を聞き、絵の見え方が広がり深まる体験。気がつかなかった部分や、今まで見えてなかったものがどんどん見え始め、絵が立ち上がってくる不思議。絵の中に自分が入り込むような感覚…。
『無重力現象』の真ん中に描かれる人物は、「科学者みたい」という意見もあれば、「天体を操っているようだ」との声もあがる。「地球を支える軸がちぎれている」「折れたのを元に戻そうとしている?」「だから手前の空間と後ろの空間が歪んじゃったのかな?」「ほんとだ!地球の傾いた軸が斜めに傾いた壁と同じ重力の方向になっているよ」
次々と子どもたちから意見が出される。
「あぁ、そっかぁー!」「言われちゃった! それ、僕も気がついていたんだ!」
こんな声もあがり、参加者の距離が一気に近づいた瞬間もあった。
◆ 世代を超えて対話
当日は乳幼児からシニアまで幅広い年齢層が同じ作品を一緒に鑑賞した。大人と子どもが混ざって話し合う良さがあった。視点の違いもさることながら、子どもたちの自由な発想に驚かされる大人たち。「子どもたちの感じ方や想像力に心躍りました」。子どもの意見に繋げて「天文学者の後ろの棚は時間の流れを表し、宇宙の未知の部分が時空のゆがみとして表現されているのではないか」と言葉にした大人もいた。
「何が正解ということではなく、自由に言えることも大切ですね」と話された方もいた。「僕には、私には、こう見えます」と違いを認め合える場。「他の絵でもやってみたい」という要望も挙がっていた。
「話すことによって、最初とは全く別の世界観で見ることができた」と変化に気づいた子ども。
「話す(言う)ことの力ってすごいなと思った」「みんなで話し合えばたくさんのことに気づくことができる、これは発見です!! 」…。
感想シートにはそんな言葉が綴られていた。
◆ アートとサイエンスは仲良し!
対話型アート鑑賞を通して様々な力が育まれるという。観察する力、感じたことを言葉にする力、伝える力、他人の意見をよく聞く力、違いや類似を見いだし受容する力、見えない部分を想像する力。子どもが見るポイントは時に意表を突く。モチーフのみならず、色、構図、背景、一本の線、人物の表情や目線、動作をしっかりと見ている。知識がなくても子どもは本質を見抜く力を持っている。アートの力、対話型鑑賞の面白さが存分に発揮されたイベントだった。
よく観察して感想を伝え合う楽しみは、科学館の中でも味わえる。宇宙の不思議、科学の面白さ、生物のすごさを、じっくり見る、感じる、調べる、話し合う。アートもサイエンスも興味を引き立て、感動を呼び起こす仲間同士なのだ。
◆ 市民交流の場として
企画にはもう一つの目的があった。それは科学館を市民の交流や活動の場として使ってもらいたいとの思いだ。多摩六都科学館のミッションの大きな二本の柱は「科学を楽しむ」と「地域づくり」。「“アートみーる” を含め様々な人たちに科学館に訪れてもらい、科学の楽しみを知ってもらう。科学館に親しみをもってもらう。そこから生まれる交流、人との繋がりを大切にしたいんです」と高尾さんは語った。
町の中にある科学館が、人の学びの現場であり、人を支える場でありたい。3月には在住外国人を対象に、やさしい日本語による《「ワクワクかがくかん」絵本をつくろう》や《「ぶんぶん文房具展」を楽しもう》など、多文化共生をテーマとしたイベントも企画されている。
科学館が果たす役割は? どういう場を作りたいのか? その模索は続く。アートとサイエンスを楽しむ場は、大人もこどもも巻き込む交流と繋がりの場となる。科学館のこれからの取り組みから目が離せない。
(卯野右子)
【関連リンク】
・多摩六都科学館(HP)
・やさしい日本語ワークショップ 「ワクワクかがくかん」絵本をつくろう(多摩六都科学館)
・やさしい日本語で「ぶんぶん文房具展」を楽しもう(多摩六都科学館)
・NPO法人ARDA(HP)
【筆者略歴】
卯野右子(うの・ゆうこ)
西東京市新町在住。金融会社勤務。仕事の傍ら「アートみーる」(対話型美術鑑賞ファシリテーター)と「みんなの西東京」の活動に携わる。東京藝術大学で「アート×福祉」をテーマに、アートがいかに福祉の分野で貢献できるかを勉強中。
素晴らしい内容の伝わってくる記事をありがとうございます。アートとサイエンスは仲良しとあるようにこの二つは観察から始まります。レイチェルカーソンのセンスオブワンダーは自然の発するメッセージの受信感度とその受信内容の表現、そしてその表現を伝え共有するところにあります。プログラムの進行の記録を見ますとまさにその流れが明解に浮かびあがってきて卯野さんの熱が伝わってきます。今後も多摩六都科学館をアートとサイエンスのコミュケーション・プラットホームとして活用くださるようお願いいたします。
サイエンスやアートが「観察」から始まるとのご指摘、身に沁みます。観察、感知、受信、表現、返信、交流…。こんな流れの延長線上に「コミュケーション・プラットホーム」が生まれるのでしょうか。これはメディアそのものかもしれませんね。
原稿への心温まるお言葉、ありがとうございました。筆者にも伝えます。(北嶋)