学校飛び出しアートに触れる 「対話による美術鑑賞」で種をまく

投稿者: カテゴリー: 市政・選挙子育て・教育文化 オン 2019年12月7日

「エドワード・ゴーリーの優雅な秘密」展が開かれていた練馬区立美術館(筆者提供)

 キンモクセイの香る秋晴れの10月23日、西東京市立の小学校に通う4年生64人が、練馬区立美術館を訪問した。鑑賞したのは、少し不気味で独特の世界観が魅力の「エドワード・ゴーリーの優雅な秘密」展。対話を通してアート作品に触れる「対話による美術鑑賞」事業の校外授業だった。学校を飛び出し本物の作品に出会って、子どもたちは何を感じたのか。

 西東京市文化振興課は2014年から教育委員会と連携し、市内の小学4年生を対象に「対話による美術鑑賞」事業を主催してきた。市が委託している認定NPO法人「芸術資源開発機構」(ARDA)は、事業の立ち上げ時から市民文化ボランティア「アートみーる」の育成を市と共に担っている。筆者も「アートみーる」の一員として2015年から現場に立ち会ってきた。

 

練馬区立美術館の展覧会看板にも工夫が見られる(筆者提供)

 

 「アートみーる」の役割は、子どもに美術を教えるのではなく、子どもが作品を見て、感じたこと、思ったことを聞く役に徹する。子どもになんでも発言してよいのだと促し、その言葉を聞き、伝えたいことのエッセンスを整理する。どんな発言も同じように受けとめる。子どもはアートに正解・不正解はないことを理解し、自由に発想を広げ思考を深めることができる。

 美術館訪問の前週の授業で、子どもたちはゴーリー作品の中から好きな作品を一つ選んでいた。「僕が選んだのはこれだよ」と作品を見つけ笑顔になる子、「想像していたより小さい」と言いながらも、絵にくぎ付けになっていた子もいた。

 

選んだ作品はどこかな?(西東京市提供)

 

 「雨のなかコウモリが急いで家に帰っていくみたい」「着物を着ているから、昔、大正時代を描いているんだと思う」「上から見下ろした絵だ」「この絵の後にこの絵が続くんじゃないかな」…。作品のモチーフを理解し、キャラクターの心情を想像する。並んだ絵から時間の流れを感じ、物語を紡ぐ。時代、地域、文化的背景、構図、視点と多くのポイントを瞬時に掴み取る子どもたちの能力の高さに驚く。

 本物のアート作品に触れる機会、一つの作品とじっくり向き合う機会は貴重だ。実際に自分の目で見て感じたことや考えたことを語りあう体験は、自分の感覚を大事にすると同時に、友達の感覚や考え方を尊重する気持ちが生まれる。

 

グルーブで鑑賞する子どもたち(西東京市提供)

 

 「鉄砲をもっているから、この絵は戦争中に描かれた絵かもしれない」「戦争中ではなくて、ライオン狩りにいくんじゃないかな」。一枚の絵から様々な意見が出てきた。「いろんな人の意見を聞いて、見ているのは同じ絵なのに、いろんな見方ができることを知った」と感想を述べた子もいた。

 美術館では、実物の作品を前にグループで対話する鑑賞に続いて、一人で作品に向き合う時間を設けている。好きな作品の前でデッサンを描く子、発見したことをシートに記入する子、それぞれのスタイルで作品を鑑賞していた。アート作品とじっくり向き合うことの面白さや自由を味わえただろうか。

 

作品とじっくり向き合い、集中して感想シートに記入する子どもたち(西東京市提供)

一枚の絵が多くの子どもを引きつけた(西東京市提供)

子どもの一人にそっと寄り添うアートみーるのメンバー(西東京市提供)

 

 今回の企画は、ARDAのコーディネーター石川恵さんと、練馬区立美術館学芸員の真子(まなこ)みほさんの尽力によって実現した。練馬区立美術館は、長年、教育普及授業にも力を注いでいる。真子さんは、美術館を訪れた小学生と触れ合い、作品についての質問を受けたり感想を聞いたりするなど、にこやかに応対していた。「学芸員と直接お話できる環境は大人にとっても大変に贅沢なこと。それを小学生にも可能にしてくださっている真子さんに感謝したい」。アートみーるの萩原久美さんは言う。

 石川さんは「都心では多くの美術館やギャラリーがありアート作品が町中に溢れるが、西東京市にはそれが少ない。地域にアートの種をまき、アートが生活に普通に溶け込んでいる町にしたい」と言う。そのためには小さな頃からアート作品に触れる機会が大切だとし「地域の人々にもっとアートに関心を持ってもらえるように仕掛けていきたい」と語った。

 

事前に学校側と綿密なミーティングを行う石川さん(中央)とアートみーるのメンバー(西東京市提供)

 

 西東京市は現在「対話による美術鑑賞」事業を、市内18小学校の半分9校づつに隔年で実施している。今年度はそのうちの1校が美術館を訪問する機会を得た。この活動は文化振興課職員の各方面との調整はもちろんのこと、校長先生や担任の先生、図工専科の先生の理解と協力があってこそ可能となる。

 子どもたちの心にアートの種をまく作業は、今日も市と市民が協働し地道に続いている。
(卯野右子)

 

【関連情報】
・エドワード・ゴーリーの優雅な秘密(練馬区立美術館
・対話で美術鑑賞・西東京市(芸術資源開発機構 ARDA

 

【筆者略歴】
 卯野右子(うの・ゆうこ)
 西東京市新町在住。金融会社勤務。仕事の傍ら「アートみーる」(対話型美術鑑賞ファシリテーター)「みんなの西東京」「放課後カフェ」の活動に参加。東京藝術大学で「アートX福祉」を履修し、2019年4月より東京都美術館のアート・コミュニケータとして人と美術館を繋ぐ活動を開始する。

 

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学校飛び出しアートに触れる 「対話による美術鑑賞」で種をまく」への1件のフィードバック

  1. 1

    美術館を訪れた日付に間違いがありました。10月18日ではなく10月23日でした。お詫びして訂正します。(編集部)

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