アスタで「第九」をご一緒に! 「今日出会った人たち」の合唱響く
2019年もあと2日となった12月30日、アスタ専門店街(西東京市田無町)の2階センターコートで「アスタで第九をご一緒に!〜弦楽ミニコンサート〜」が行なわれた。指揮は荒井雅至さん。原曲のオーケストラパートは、弦楽アンサンブル「ムシカアレグレ」とキーボード「SONOKO」が受持ち、「今日出会った人たち」による合唱がセンターコートの吹き抜けに響きわたった。
隣は「今日出会った人」
センターコートにはステージと客席が作られ、楽器がセットされ、コンサートの雰囲気が出来上がっていた。合唱に参加する人は舞台裏に集合。去年も一緒に歌った人、久しぶりに顔を見た人、初めての人もいる。楽譜を持たない人、持つ人。その楽譜もいろいろな版だ。これから何が起きるのか、考えるとワクワクする。衣装に着替えたムシカアレグレのメンバーが舞台に登場すると、会場が一気に華やかになった。
主催者である印田恵理さんの挨拶に続き、指揮者登場。演奏が始まる。
弦楽器によるテーマが始まると、一気に「第九」の世界に引き込まれる。みんなが知っているあのメロディー。客席でもうっとり聞き入る姿が見受けられた。
合唱は一番有名なところから参加。混声四部合唱で堂々と歌う部分。多くの人が顔を上げ、楽譜から目を離している。どこかで「第九」を経験した人が、「また歌いたい」という気持ちで参加している様子だった。
「第九」といえば、後半では合唱の他にソリストが掛け合う部分もある。ムシカアレグレのメンバーが演奏しながら立ち上がり、ソリストの歌う部分を演奏する。華麗なアンサンブルに聞き入って、再び歌が入るタイミングを忘れそうになる。曲の終盤、テンポが変わる部分は、先立って行われた練習でも合わせることが難しかったが、指揮者にリードされてフィニッシュを駆け抜けた。
演奏が終わると客席からは大きな拍手が送られた。見上げると3階の回廊にも観客がいた。最後は客席の人も一緒に「ふるさと」を歌う。買い物途中の人も声を合わせて大合唱となった。
この時間が楽しい!
本番の演奏に先立ち、正午から行われた合唱練習には30人ほどが参加した。センターコートにポツリ、ポツリと集まってくる人たちの間から、再会を喜ぶ声が聞こえてくる。本番を待つ間も、近況を報告しあったり、コンサートの宣伝をしたり、キーボードのSONOKOさんと練習をしたり。「あれ、なんでいるの?」と思わぬところで繋がりがわかったり…。他の演奏会で出会ったメンバーとの再会を喜ぶ人たちもいた。「学生時代の楽譜だよ」「今日は何年かぶりに歌うんだ」と同窓会のようだ。
「こんな暮れの忙しい時に…」と言いながら、なんとか時間をやりくりしてやってくる。来年も12月30日はここで会える。そう思いつつ「良いお年をお迎えください」と挨拶して別れる。
毎年参加するという女性は「歌うことも楽しいが地域の音楽仲間と集える。1人でも参加できる。しかも『第九』という、崇高ではあるが親しみやすい音楽で繋がりを感じることが楽しい」と話した。
他にはない「第九」
ベートーヴェン作曲「交響曲第9番 ニ短調」は日本では年末に公演されることが多く、毎日のように日本のどこかで演奏されている。田無駅に隣接する商業施設の「センターコート」というオープンな場所で、1回の事前練習もなく演奏する、というやり方は珍しいと思い、仕掛け人の印田さん、荒井さん、SONOKOさんに話を聞いた。
印田さんは、アスタセンターコートを市民の広場として活用するための相談を受けていた。音楽イベントを企画し、「週末アスタに行くと何かがある」と市民に覚えてもらうようになった。
2011年の東日本大震災の翌年、被災した地域の復興を祈り、世界の平和を祈るようなコンサートを市民参加で行うことを考えた。最もふさわしい曲は「第九」。様々なコンサートで「第九合唱団」が生まれる。歌える人は沢山いるはず。メロディーを「ラララ」で歌っても良い、歌いたい人が参加できるこだわりの少ない演奏にしたい、と考えた。
地元西東京市在住の荒井さんは弦楽アンサンブル「ムシカアレグレ」を主宰している。荒井さんは印田さんの企画の趣旨に賛同し、第1回から指揮を担当した。「その場で出会った人たちが作り上げるわけですから、出来るだけ楽譜に忠実に振るようにしています」と荒井さんは話した。
キーボードで主に管楽器の部分を演奏するSONOKOさんは「歌う人にわかりやすいように、と心がけている」と話した。専門家によるサポートがあってこそ、このコンサートが実現していることがよくわかった。
「副題に『弦楽ミニコンサート』とついている点もこのコンサートの特徴」と印田さんは説明した。オーケストラかピアノでの演奏になるところを生の弦楽器で伴奏することは音楽の楽しさを深めている。「歌う人たちからも、客席で聴く人たちからも好評」と話した。プロの奏者がしっかり支えてくれるからこそ、気持ち良く歌える。大変な仕掛けがよくわかった。
会場を片付けるアスタの担当者に感想を聞いた。
12月30日はセンターコートでのイベント最終日でもある。「年の締めくくりに参加型のコンサートができ、買い物客にも楽しんでもらえる。アスタの風物詩となると良いと思います」と話した。
コンサートの最後に「来年の12月30日、またお会いしましょう!」と挨拶した印田さんの言葉を胸に、それぞれが師走の街へ戻っていった。
(渡邉篤子)(写真は筆者提供)
【筆者略歴】
渡邉篤子(わたなべ・あつこ)
ひばりが丘在住約30年。音楽教室講師の傍ら公民館などで音楽講座の講師を務める。ひばりが丘でエリアマネジメントをする民間団体「まちにわひばりが丘」のボランティアチーム「まちにわ師」2期生。コミュニティーメディア「AERU」担当。
ふらりと第九を歌える場は、とても良いと思います(^^♪
文京区の第九を2年続けてやったのに、昨年、アスタでであったら全く歌えなくなっていました。忘れるのは、早いとガッカリ。
第九に限らず、こうしたふらりと皆が参加できるコンサートや歌の広場が増えるのは、とても良いと思います。是非続けて下さいね。