書店と野菜

書店内に地元産の野菜並ぶ 東久留米駅前の野崎書林が「FRESH & LOCAL」に挑む

投稿者: カテゴリー: 暮らし環境・災害文化 オン 2020年8月16日

 西武池袋線東久留米駅西口にある「野崎書林」。久しぶりに立ち寄ると改装されている。明るく、きれいな店内に入ると、なんとマルシェが目の前に現れた。(写真は、年中無休。地元の野菜が並ぶ書店)

 

朝採り野菜を待つ

 

 午前10時の開店を待つ人がいる。
 ガラス越しに店内が見える。次々と野菜を並べているのはスタッフと生産者だろうか? 業者用の入り口から入り、展示を終えた女性に話を聞いたら、毎朝、採れたての野菜や果物を納めているという。「地元の人に買ってもらえてうれしいです」と笑顔で話した。「もう少し、多めに作付けできたらよかったのですけど…」。想定より多く売れているようだ。

 トマト、枝豆、コマツナ、ナス、ちょっと変わったオクラ。「江戸東京野菜 八丈オクラ」とポップが付いている。「柔らかいですよ」と教えられた。果物はナシとブドウ。量は多くないが種類が豊富。開店と同時に買い物客が殺到、という様子ではないが、黙々と野菜を選ぶ人が途切れない。

 買い物をしている30代くらいの女性に「よく来るのですか?」と聞くと「初めてです。ガラス越しに見たら花や野菜が売られていたので、ふらっと入ってしまいました」と話した。手にした買い物かごには花や野菜の他に「柳久保かりんとう」も入っていた。

 野菜の隣には「柳久保小麦」で作った「パンケーキミックス」「柳久保小麦」「柳久保かりんとう」が並ぶ。

 「柳久保小麦」は江戸時代から、現在の東久留米市柳窪で作られた。粘りが強く、香りや風味に優れていたが、大量生産に向かなくて、1942年(昭和17年)以降は作られなくなり「幻の小麦」となった。昭和の終わりに栽培が復活し、市内の農家が増産に協力し、東久留米市の特産品となった。

 

思わず手にとってみる

 

 「パンケーキミックス」の横にはハチミツが並ぶ。「東久留米市柳窪 奈良山園」と書いてある。地元の農園だ。ハチミツの横には小さなイーゼルにのせて「羽音に聴く」という本が飾られている。野菜のコーナーには高樹のぶ子の「私が愛したトマト」、パンケーキミックスの横には「ぐりとぐら」の絵本が飾られている。

 レシピ本だけではないところがオシャレだ。野菜直売所、という感じがしない。壁にはぐるりと木製の棚が並ぶ。

 「自由学園」のコーナー、東久留米市出身のアーチスト「大小島真木さん」のコーナー、ここにも博物誌や画集、絵葉書が置かれている。「東京ジャム」「東村山 竹田商店のドレッシング」などの加工品。タオルや、ジャムスプーンなどの雑貨もある。地元東久留米市と近隣地域の逸品が紹介されている。

 開店20分くらいで半分くらいは売れていた。ブドウ、ナシは完売。取材しながらも「なくなったら大変!」と野菜と果物を早めにカゴに入れておいて良かった!

 

FRESH & LOCAL

 

 郊外型の農業を営む生産者と地元の消費者を上手に繋ぐ拠点がどのような経緯で作られたのか。ここを運営する「ブックセンター滝山」専務取締役の野崎林太郎さんに話を聞いた。

 「野崎書林 プラス ゲオ 東久留米駅前店」(東久留米市本町)がリニューアルオープンしたのは5月15日。新型コロナウイルス感染症拡大防止のために緊急事態宣言の出されていた最中だ。緊急事態宣言が出されていた期間も、店舗改装のために数日休業した他は、時間を短縮して営業を続けた。地元のお客さんからは多くの感謝の言葉があったという。

 

野崎林太郎さん

 

 「うちは元々農家なので」という言葉から話は始まった。本を取り巻く環境が大きく変わり、書店の経営を続けるための方策を練っていた。「原点に帰って」という思いから、野菜の直売を取り入れることを考えついたという。

 東久留米市は住宅地も多いが、都市型、郊外型の農業が盛んだ。野崎さんは「住宅地に隣接した畑で営む農業は制限も多い。作った野菜を販売する手段も限られている。根性がないとできない」という。それでも農業にこだわり「情熱を持って育てた野菜を地元の人に食べてもらいたい」という生産者と共に新しい試みを始めた。

 農産物の加工品であるジャムやドレッシング、クッキー、パン、なども販売している。大手のスーパーマーケットでは見かけない、ローカルなブランド。「生産」「加工」「販売」が繋がり「地元の良いもの」が提供されている。

 

FRESH & LOCAL

 

 駅のロータリーに面した店は、都心で働く住民も立ち寄りやすい。買う方にとっては買いやすく、地元の魅力を知る機会となる。野崎さんはこのマルシェに「FRESH & LOCAL」というロゴを付した。本当にその日の朝収穫された野菜や、地元の銘品と出会える場が駅前にできたことは、地元のファンを増やすことになると感じられた。

 

野菜も本も同じ考え方

 

 野菜のある奥のスペースは書店だ。広い店内に特設のコーナーがあった。武蔵野市にある「夏葉社」の出版物が展示されている。装丁を見ただけでも本が何かを語りかけてくるようだ。

 

どれも読んでみたくなる!

 

 「夏葉社」は島田潤一郎さんが一人で起業した出版社だ。大手の流通ルートには乗せないが、島田さんが届けたい、と思う本が刊行されているという。「島田さんは、読者が見えるような売り方を大事にしている。その意味では野菜も本も同じです」と野崎さんは話した。

 マルシェのスペースに飾られていた本も読書の楽しさを思い出させてくれた。
 街の本屋さんが取り組む「FRESH & LOCAL」の取り組みは、日々の暮らしを豊かにしてくれそうだ。
(渡邉篤子)

 

【関連情報】
・野崎書林+GEO🎮(twitter
・野崎書林マルシェ(instagram
・夏葉社(HP

 

渡邉篤子
(Visited 4,234 times, 1 visits today)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA