田無神社が御遷座三五〇年大祭記念誌を刊行 「歴史を知り、郷土愛はぐくむきっかけに」

投稿者: カテゴリー: 文化 オン 2023年2月1日

 西東京市の田無神社が、御遷座三五〇年大祭の記念誌「写真と資料から見る田無神社」を刊行した。1000点を超える写真、資料とともに、神社の由緒から御遷座三五〇年大祭までを紹介。明治から令和までの同神社と地域、人々の姿も垣間見え、著者、編集者の賀陽(かや)智之宮司は「若い方や新しく引っ越してきた方も含めて、地域の歴史を知り、郷土愛をはぐくむきっかけになればうれしい」と話している。

 

賀陽智之宮司

田無神社本殿前で記念誌を手にする賀陽智之宮司、写真・イラストはすべて賀陽宮司提供

 

  鎌倉時代に創建、遷座は江戸時代

 

 記念誌によれば、田無神社は13世紀、鎌倉時代に創建。当時は、谷戸の宮山(現在の田無第二中学校敷地内)に鎮座し、尉殿(じょうどの)大権現と呼ばれていたが、江戸時代の1670年(寛文10年)、現在の地に遷座(社に祀られている祭神を別の地に移すこと)。明治に入り、1872年、政府の神仏判然令により田無神社と改称された。

記念誌

御遷座三五〇年大祭の記念誌  写真と資料から見る田無神社

 御遷座から350年の2020年10月に三五〇年大祭が行われ、記念誌も同年に予定されていたが、コロナ禍などの影響もあり、昨年末の刊行となった。記念誌について賀陽宮司は、「これまで神社に関するまとまった資料がなかった。350年の大きな節目に神社、田無の歴史をまとめ、地域の人、神社の職員にも知ってほしい」と語る。

 A4判、約330ページの記念誌には写真800点、資料203点を収録。「由緒」「大祭と神輿(みこし)」「本殿・拝殿と参集殿」「境内の石造物」「神社と戦争」「御遷座祭」など全10章で構成され、なかでも力を入れたのが「由緒」という。

 「とくに田無神社の御祭神、神様についてはいろいろな解釈があり、神社としての見解をまとめる必要があった」と詳細に解説している。

 

  ミステリーを読むような「由緒」

 

 本書によると、田無神社(尉殿大権現)の御祭神は「シナツヒコノミコト(級長津彦命・志那都比古神)」「シナトベノミコト(級長戸辺命・志那都比売神)」で、風雨の順調と五穀豊穣を司る神、また神仏習合の「本地垂迹(ほんじすいじゃく)」の考え方で御祭神の真の姿である「倶利伽羅(くりから)不動明王」は水の守護神と説明。賀陽宮司は「御祭神は荒ぶる水神ではなく、水分(みくまりの)神、湧き水の神として、人々に恩恵を施す感謝の対象であったということ。これまで訳が分からず拝んでいて、理解したいと思っていた人も多く、この本で知っていただけたら」としている。

 

田無神社境内図

記念誌にも掲載されている田無神社境内図。中央の龍神池(ビオトープ)など、近年整備が進んだ

 

 もうひとつ、諸説ある遷座日も、賀陽宮司の父で先代の賀陽濟(わたる)宮司時代から1670年説がとられていたが、本書で改めて宝物「田無神社記」などをもとに同年を遷座日に定めた。

 御祭神、遷座日に関する由緒では、さまざまな資料を客観的証拠として推測を重ね、見解に至る過程がつづられ、ミステリーを読むような味わいもある。

 

  新発見の祝詞を読み解く

 

「神社と戦争」も力が入っている。ここでは「戦争を祝詞から読み解く」として、日清・日露戦争から第一次大戦、満州事変、大東亜戦争などにまつわる祭典で奏上された祝詞に注目した。

 

祝詞

1945年の大東亜戦争終戦奉告祭祝詞。「堪難乎堪閉忍難伎乎忍」と終戦詔書の引用も

 

「倉庫から新たに発見された祝詞を読むうちに、価値があるものだと気づき、記念誌に入れることにした。祝詞からは歴史、古い時代の世情や人々のくらしが読み解けて面白いと感じました」

 たとえば、現在の田無小学校の初代校長、刑部(おさかべ)真琴の没後、同小に建てられた銅像除幕式記念祝賀会の祝詞(1928年11月)。刑部は田無の教育に尽力した「レジェンド」で、境内にある日露戦争戦役記念碑に田無町からの出征者の名前を刻むなどしている。祝詞では、品行が良く礼儀正しい人で、話は苦手だったが、文章を読み解く能力は並外れた人だった―と人柄にも言及。

 一方、1945年の「大東亜戦争終戦奉告祭祝詞」では、日本軍の奮戦を讃えながらも、これ以上の継戦は日本国の滅亡を招くなどとして戦争の終わりを奉告。国民が力を合わせて復興することを祈願した内容だ。

「祝詞は一般の人の目にふれる機会があまりなく、直筆で日付や場所も書かれており、貴重だと思います」

 

  「開かれた神社」で、伝統を後世に

 

 このほか、都指定文化財となっている神社本殿を手掛けた江戸の名工・嶋村俊表の彫刻の数々、明治から大正にかけて田無で盛んだった養蚕を描いた絵馬、刀や弓といった宝物なども紹介。江戸時代に備前藩の侍医から諸国医学修行の途上、立ち寄った田無村で名主・下田半兵衛富永に請われて定住し、村医となった賀陽玄雪を祖とする宮司家の歴史も興味深い。

「多くの方に手に取ってもらえるような本を目指しました」というように、第四章「大祭と神輿」を中心に、祭礼などでの市民らの写真も多く掲載され、地元の読者には興味津々だろう。

 

神輿渡御

一の鳥居付近での本社神輿渡御(2019年10月)

 

 2013年に27歳で七代宮司に就任して10年、賀陽宮司は、本書の刊行を経て前を向く。
「この10年、『開かれた神社』をスローガンに、地域密着でがんばってきた。今後も神社、郷土の祭り、習俗などの伝統を守り、後世につないでいくことを考え、若い人にも振り向いてもらえるような発信と努力をしていきたい。皆さんにもお祭りに来て、神輿を担いでもらいたいですね」

 

 記念誌は2024年3月31日まで田無神社社務所で販売(定価3000円)、23年5月31日まで郵送(1冊送料520円)のファクス(042‐633‐4804)受け付けも。詳細は、神社サイトか、同神社(☎042-461-4442)へ。
(倉野 武)

 

【関連情報】
・御遷座三五〇年大祭記念誌『写真と資料から見る 田無神社』(田無神社

 

倉野武
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