現代アートへの入り口広める 角川武蔵野ミュージアムで「タグコレ 現代アートはわからんね」展
角川武蔵野ミュージアムで2月4日から「タグコレ 現代アートはわからんね」展が始まった。わかりにくいとされる現代アートを新たな視点と展示方法で紹介し、アートへの入り口を広める意欲的な展覧会だ。(写真は、ミュージアム外壁に展示された《尋ね人》 テレサ・マルゴレス)
「タグチアートコレクション(タグコレ)」とは、金属部品メーカーと部品調達サービスを兼ね備えたミスミグループ創始者の田口弘氏が収集し、娘の美和氏に引き継がれた現代アート作品約650点からなる。田口氏が現代アートに出会い引き込まれていった過程や収集の経緯など、タグコレが形成・拡充されるまでを5つのエピソードに仕立てて展示している。
驚くのはその展示方法。従来はホワイトキューブと呼ばれる基本的に白一色で装飾を排した箱に作品を展示する。タグコレ展では、展示室に入るまで真っ暗な通路が続く。たどり着いた先にはブラックキューブならぬ暗闇の中に作品が照明をあびて浮かび上がる。
隈健吾氏がデザイン・監修した角川武蔵野ミュージアムは堅固な城壁と見まごう異形の建築物だ。タグコレの展示室である1階グランドギャラリーは、外界から閉ざされた漆黒の展示空間だった。作品は34作家の52点。絵画・立体・写真・映像と幅広い。1960年代のアメリカンポップアートから、現代も作品を生み出している海外や日本人作家らの多彩な作品が展示されている。
キャプションにも工夫があった。これまでの展示は通常、作者名・タイトル・制作年・素材などを記した基本的な文字情報はキャプションと呼ばれ、作品脇に小さなプレートで表示されることが多い。説明は最低限に抑えられ、文字が小さく読みづらい。
本展示では、作品を理解するための重要な情報として扱われている。角川武蔵野ミュージーアムアート部門ディレクターの神野真吾氏によると「作品と文字とが等価に扱われる展示に挑戦」したという。
コレクションアドバイザー塩原将志氏と、運営を引き継いだ美和氏の語りを盛り込み、コレクション形成の軌跡を伝える役割もキャプションが果たしている。それぞれの作品がタグコレとなったストーリーなど、舞台裏のエピソードも興味深い。キャプションによる十分な情報が、作品への理解を助け、現代アートへの興味関心を引きだす仕掛けだ。
タグコレは多くの人々に現代アートを楽しんでもらえるよう、美術館に作品を貸し出し、学校の体育館で展覧会を開くなど、外に開かれた活動にも積極的だ。遊びながらアートに親しめるアートカードもコレクション作品から作成した。
メイン会場であるグランドギャラリー以外に、ミュージアム外壁や、4階のエディットタウン、屋外・エントランスなどのフリースペースにも作品が展示されているので見逃せない。
作家と展示作品そのものの魅力に加えて、趣向をこらした展示内容は、初めて現代アートに触れる鑑賞者にもわかりやすく、多様な人々に入り口を開くきっかけになる魅力ある展示となっている。
(卯野右子)(写真は筆者撮影)
●展示会期 2023年2月4日(土)から5月7日(日)まで
●出品作家
会田誠、カラ・ウォーカー、アンディ・ウォーホル、オスジェメオス、加藤泉、グレゴリー・クルードソン、小泉明郎、デイヴィッド・サーレ、さわひらき、ラキブ・ショウ、インカ・ショニバレCBE、スーパーフレックス、田名網敬一、ミカリーン・トーマス、奈良美智、名和晃平、西野達、ピーター・ハリー、潘逸舟、ウラ・フォン・ブランデンブルク、キース・ヘリング、デイヴィッド・ホックニー、ライアン・マクギネス、テレサ・マルゴレス、アド・ミノリーティ、宮島達男、ヴィック・ムニーズ、ザネレ・ムホリ、オスカー・ムリーリョ、森村泰昌、ロイ・リキテンスタイン、トーマス・ルフ、ケヒンディ・ワイリー、渡辺豪(五十音順)
【関連情報】
・タグコレ 現代アートはわからんね(角川武蔵野ミュージアム)
・角川武蔵野ミュージアム(HP、Facebook、Twitter、Instagram)
・タグチアートコレクション(HP)
・たぐコレアートカード(タグチアートコレクション)
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