地域に根差した活動を支える人々―興味・関心のあるところから

投稿者: カテゴリー: 文化 オン 2023年12月30日

 縁もゆかりもなかった北多摩地区西東京市 ― 。会社から急いで帰り、保育園で預かってもらっていた子らを連れ帰り、食べさせて寝かせるだけの場所だった。子育てを通して地域との関わりが増えるにつれ、地元に愛着を持ち、そこに住む人々の生活をよりよくしたいと奮闘する人が多数存在することを知った。信念をもって活動している様子を目の当たりにし、地域における活動や交流の重要性に気づかされたりした。尊敬する友人を紹介したい。

 

金刀比羅宮

金刀比羅宮境内、五つの白い傘が目印の「五人百姓」加美代飴の売店(写真:池商店HPより)

 

人と人の間に立つ

 11月20日、小平市で開かれた「こだいら100人カイギ マチカン! Vol.45」のゲストに、香川の金刀比羅宮「こんぴらさん」から、五人百姓《池商店》の28代目がやってくる! ということで参加した。呑んで街を面白くする「こだいら100人カイギ」。「マチカン!」は、まちでカンパイ!の略で、近隣で働く100人を起点に、人と人をゆるやかにつなぎ、街のあり方や価値の再発見を目的とするコミュニティーだ。

 《池商店》の28代目池龍太郎さんを招いたのは、田原三保子さん。2023年3月まで小平市民活動支援センター「あすぴあ」のセンター長を5年間務めた。小平こども劇場の運営や小平市全体のこどもと親子の支援など、市民活動にも長く携わってきた。小平市に住み始めて33年。地域と関わるきっかけはゴミ・環境問題だった。

 旅好きな田原さんが6月に訪れた香川県琴平町、金刀比羅宮への表参道、急階段の69段目にあるお店で言葉を交わしたのが池龍太郎さん。古来より金刀比羅宮の神事のお手伝いを続け、ご利益飴を作る五軒の家筋(五人百姓)のひとつ、池家の当主だった。

 

池龍太郎さんと田原三保子さん

池龍太郎さんと田原三保子さん

 

 こんぴら名物《加美代飴》は、「五人百姓」である5軒の飴屋のみが境内大門内で販売を許されている。そのうちの1軒である池商店は、鎌倉時代1245年10月創業。778年続く老舗の28代目当主である池さんから、こんぴら詣の歴史や文化について聞いた田原さん。彼の、暮らす街への思いに動かされた。

 関西の大学で学んだ池さんが故郷に戻ったのは、過疎化が進む中、コロナ禍でさらに人が居なくなってしまった街の姿に衝撃をうけたからだ。一度も家業を継げと強制されたことがなかった池さんだったが、意を決し店を継いだ。人口が8000人台まで減った琴平町を盛り上げ、街の歴史や文化を継承するという使命感から、琴平町の魅力を発信する語り部として活躍している。

 田原さんは、長い市民活動の中で、多くの団体が共通した課題や悩みを抱えている実態を知り、活動の当事者から、活動を支援する側になりたいと軸足を移した。これまで培った知識と経験を生かし、団体をサポートすると同時に、活動に携わる人々をつないできた。池さんが地域のためにと奮闘する姿が自分の姿と重なり、共振した。

 

加美代飴

《加美代飴》お詣りできない人のために飴を持ち帰り、金づちで割ってご利益を分けていただく

 

 街をよくするために何ができるのかを考え、人の間に立ってサポートし、団体と団体をつなげ、街全体を活性化させた。中間支援が大きな役割を果たすことを知り、身をもって実践している二人だからこそ実現したトークイベントだった。

 「必ずしも大きな目標があったわけではないの。自分の興味や関心のあるゴミ問題や子育てについて話し合える仲間を探し、『終の棲家』となるこの街を少しでも住みやすくするために、その時その時にできることに取り組んできただけ」と田原さんは言う。

 

見る側から描く側へ

 西東京市より少し西の多摩地区、国立市では市民が実行委員会を組織して、市内の飲食店などを中心に映画上映会を開いている。2019年からは秋に「くにたち映画祭」を開催し、1980年代に映画館が消えてしまった街をまるごと映画館にして、多くの人に楽しんでもらいたいと活動。今年は12月9日までカフェやギャラリーなど10会場で国内外の15作品を上映した。

 実行委員会メンバーの一人である中西景子さんは、映画祭に合わせて「詩人アーサー・ビナードとマジシャン大友剛による絵本の向こうに日本が見える!」を企画した。アーサー・ビナードさんを招いたイベント開催は2021年から今年で3回目。

 アーサー・ビナードさんと大友剛さんは、英語の絵本を多数日本語に翻訳している。アーサーさんは「はらぺこあおむし」で有名なエリック・カールの絵本も多数紹介。彼が亡くなる2021年まで交友と翻訳が続いた。

 エリック・カールが12歳の時、美術の先生がこっそりある絵をエリックに見せた。ナチス政権に「堕落した美術」として見ることを禁止されていたフランツ・マルクの絵だった。大胆な色彩で動物が描かれたその絵は、エリック・カールに多大な影響を与え、後に「えをかくかくかく」が生まれたきっかけとなった。

 

アーサー・ビナードさん

「えをかくかくかく」を朗読するアーサー・ビナードさん

 

 「はらぺこあおむし」の出版に関する裏話から始まり、「えをかくかくかく」では、描いてみるとわかること、描いてみると見えること、作る側にまわると見抜けることについてアーサーさんは話した。

 権力者が3000年前から人民を支配するために政治的にマジックを使った事実が紹介された。手品師の大友さんがマジックで、いかに人が視覚的、言語的に騙されるかを実演。手品師の手法に触れ、今も同じ構図があること、騙され続けている国民の愚に警鐘を鳴らした。

 新聞、テレビ、SNSなどメディアによって、民衆・消費者として騙される構図を示し、騙される側に居続けず、まずは大前提を疑い、嘘を見破る力、インチキ・ペテンに振り回されない力を取り戻してと訴えた。そのためには、視点を変えてみることが重要で、見る側から描く側に立つと、これまで気が付いてなかったことがみえてくると語った。

 

アーサー・ビナードさんと中西景子さん

アーサー・ビナードさんと中西景子さん

 

 中西さんが最初にアーサー・ビナードさんの話が聞きたいと思ったきっかけはネットで探し当てた一本の動画だった。コロナ禍初期に、ふと、アーサーさんなら今の状況をどう考え、なんと発言しているのだろうかと思っていた時だった。「一筋の希望の光を見出す思いだった」という。

 コロナ禍中、様々な情報が錯綜・氾濫するなか、政府や大手メディアの情報だけに頼らず、他の見方や考え方がないかを探した中西さん。モヤモヤした気持ちを置き去りにせず、見る側から描く側、受ける側から作る側へと一歩を踏み出した。こんな見方もあるよとイベントを企画し発信した。

 

大友剛さんと稲村瑞穂さん

音楽家でマジシャンの大友剛さんと、書家の稲村瑞穂さん

 

 『ねこのピート だいすきなしろいくつ』のピートのように ♬かなり さいこう♬と歌いながら、なにがあっても前に進んでいこうと背中を押してくれたアーサー・ビナードさん、大友剛さん、そしてこの企画を実現してくれた友人に励まされた。

 

地域の落ち葉を集める

 ひばりタイムスのサイト内にある「ひばりタイムスとは」には次のように書かれている。
 「ひばりタイムスは、西東京市や近隣で起きた出来事、住民の活動を伝える地域報道サイトをめざして活動しています。住民の生活と経験を大切に、マスメディアの網からこぼれ落ちがちな暮らしのニュースが少なくないからです。住民が互いに交流し支え合って暮らす、これからの地域作りに欠かせない要素だと考えています。」

 北嶋編集長が10年間孤軍奮闘された経緯、ひばりタイムスについては、説明は必要ないだろう。

 ひばりタイムスは、書くことが全く素人の私に、興味と関心があることについて書く場を与えてくれた。一歩を踏み出す勇気をもらい、市民の交流や活動を支え続けてくれた。

 筆者の拙い原稿のやり取りの中でいただいた北嶋さんのつぶやきからー

 「ぼくの原稿は、読み捨てられるのが通常の『ニュース』が多くなります。まあ、大木から地面に散った落ち葉のような気がします。でも地域の落ち葉は、それを掻き集めると堆肥にならないとは限りません。発酵した末に地に戻り、草木や花々に生気を与え、折々野菜も勢いよく実れば万々歳、でしょうか。落ち穂拾いでもあるでしょうね。あまり頑張らずに、とぼとぼ歩きましょう。」

 さあ、落ち葉を集めに、出かけましょう。興味・関心のあるところからの小さな一歩が、暮らしを彩り、住むのが楽しい街となる。とぼとぼと、ふらふらと、ときにはるんるんと、手に手をとって、声かけながら、歩いていきましょう。

 

(卯野右子)

 

【関連情報】
・池商店(HP
・金刀比羅宮(HP
・小平市民活動支援センター(HP) 
・くにたち映画館(HP
・アーサー・ビナード(著作本・翻訳本)(絵本ナビ
・大友剛(HP
・はらぺこあおむし(エリック・カール スペシャルサイト
・えをかくかくかく(偕成社
・ネコのピート(HP

 

卯野右子
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