武蔵野市、旧赤星鉄馬邸を一般公開 利活用プロジェクトの検討進む
武蔵野市は2023年11月に吉祥寺本町4丁目の「旧赤星鉄馬邸」を期間限定で一般公開した。2022年に国の登録有形文化財(建造物)になった「旧赤星鉄馬邸」と庭園の公開は今年5月に続いて2回目。アントニン・レーモンドが設計した旧赤星鉄馬邸と、緑豊かな庭を利活用し、この環境を将来に残していくための市のプロジェクトが昨年から進められている。
周辺の住居環境に及ぼす影響や運営手法を探るため、ワークショップで出された意見やアイデアをもとに実際に企画・運営する社会実験が始動。11月5日には、ヨガや茶道ワークショップ、カフェ・スィーツ・雑貨販売、歴史勉強ツアー、屋外では映画上映も行われた。
旧赤星邸は明治生まれの実業家赤星鉄馬の邸宅で、1934(昭和9)年に竣工。チェコ出身の米国人建築家アントニン・レーモンドが設計。レーモンドは、フランク・ロイド・ライトのもとで学び、帝国ホテル建築の際、来日した。その後数多くの近代建築を手がけ、東京女子大学キャンパス校舎や礼拝堂も彼による設計だ。
旧赤星邸は、レーモンドが設計した鉄筋コンクリート造の住宅専用の建物として唯一現存する建造物だ。敷地は約4500平方メートルで、緑豊かな庭に市指定の保存樹木32本がある。
1944年(昭和19)に陸軍に接収され、戦後はGHQに接収された。1956年(昭和31)からはカトリック・ナミュール・ノートルダム修道女会が所有し、長らく修道施設として使われていた。しかし近年ではシスターのなり手が減ったため閉鎖することとなり、2021年(令和3)2月に建物の寄贈を受け武蔵野市の管轄となった。
土地は公園空白地域であるため公園とした。建物は登録有形文化財の登録を目指し、2022年(令和4)10月31日、国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
筆者が5月に訪問した時は閉館間際、駆け足の見学だったので、11月の公開時には朝一番で予約をいれて再訪した。庭との一体感が感じられる居間・食堂の床面には、太陽の光が室内まで入り込み暖かだった。ボランティアの説明は、建築の特徴に加えて、赤星鉄馬の人となりが伝わるエピソードも含まれ、興味深かった。
修道女会が建物を大切に使っていたことが伝わってきたが、壁や内装、2階ベランダなど一部改修され、建築当時の様子は写真から伺うことしかできない部分もあった。
アントニン・レーモンドの設計と併せて、妻のノエミ・レーモンドの家具やインテリアデザインも見どころ。和服や小物を入れる棚などは赤星夫人の使い勝手が考慮され、女性デザイナーの視点が生かされた設計となっていた。
リビングや書斎、寝室、子ども部屋などの配置や使われ方から、当時の生活の様子をうかがい知ることのできる貴重な建物だ。家具や床に使われている赤セコイアは、鉄馬が気に入ってアメリカから直に取り寄せた木材で、細部へのこだわりが見られた。
老朽化による耐震基準などの問題を抱えながら、利活用がどのように進んでいくのか、武蔵野市がこの近代モダニズム建築をどう活用していくか、これからも注目していきたい。
(卯野右子)
【関連情報】
・旧赤星鉄馬邸の利活用について(武蔵野市)
・「旧赤星鉄馬邸の庭園活用社会実験」を開催!(ソトノバ)
・旧赤星鉄馬邸見学ツアー(YouTube 武蔵野市動画チャンネル)
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