瞽女の伝承、地域の民俗史を追体験 保谷駅前公民館の講座「瞽女唄が聞こえる」

投稿者: カテゴリー: 文化 オン 2023年2月17日

 西東京市の保谷駅前公民館と高橋家屋敷林保存会の共催による地域講座「 瞽女唄が聞こえる」が3月2日、西武池袋線保谷駅北口から徒歩約5分、下保谷四丁目特別緑地保全地区内にある旧高橋家母屋で開かれる。今年で3回目。

 

  「春には瞽女が来た」

 

瞽女唄講座チラシ

(クリックで拡大)

 西東京市下保谷地区には瞽女の伝承が残されていた。保谷市史編さん委員会が編集・発行した「下保谷の民俗 資料報告」(1985年)には、「春には4、5人の瞽女が来て切り餅などをあげた。泊まる家は決まっていた。私の家に泊まったこともある。『ゴゼッボウが来た』と言って、石を投げたこともある」などの記述がある。講座は地域の民俗の歴史を追体験する場でもある。

 講師・演者は、小関敦子さん(45)。越後瞽女唄伝承者・萱森直子に師事し、最後の瞽女・小林ハルの生涯を描いた映画「瞽女 GOZE」(2020年)の制作に、瞽女唄の指導で参加した経験もある若手の演者だ。

 小関さんは30代前半に瞽女唄と出合った。当時、小関さんは津軽三味線を習っていたが、萱森の瞽女唄を聴き、彼女の飾らない自由そのままの演奏姿勢と、庶民的で素朴な唄の土臭さ、力強さに魅せられた。2011年から、萱森が住んでいた新潟市まで通って指導を受け、2019年に自身、初の公演を実現した。

 

  演目に「葛の葉子別れ」

 

 今回、小関さんが力を入れている演目が、子別れ物が多い瞽女唄の中でも特に人気の高い「葛の葉子別れ」。白狐の化身である葛の葉姫は安倍保名との間に子ども(童子丸)をもうけるが、正体がばれて子どもと別れて森へ帰る、という筋書きだ。安倍保名の子どもが平安時代の有名な陰陽師・安倍晴明という伝説もある。その第四段のクライマックスを、小関さんは「聴く人たちが身近に、なじみやすく感じてもらえるように演奏したい」としている。

 

瞽女唄の演奏

演奏する小関敦子さん(写真提供:保谷駅前公民館、2022年2月24日)

 

 瞽女は、鼓を打ったり三味線(時には胡弓)を弾いたりして家々を巡り、玄関先で独特の節回しで唄を歌ったり、弾き語りを生業としたりする盲目の女性の旅芸能者。民謡、俗謡のほか説話の弾き語りもした。

 日本の伝統芸能の一つで、起源は古く室町時代にさかのぼる。江戸時代に全国に広がり、最盛期は明治時代の中頃。第2次大戦後、転職が相次ぎ急速にその数を減らしたが、昭和30年代(1955年~1965年)まで存在した。

 新潟県は多くの瞽女を輩出し、「越後瞽女」は瞽女の代名詞のような存在だった。高田瞽女(現、上越市の旧高田市域)と長岡瞽女(長岡市)がとくに有名。現在残っている瞽女唄の音声記録のほとんどが、小林(長岡瞽女)のものである。小林の故郷・新潟県三条市には保存会も存在し、「長岡瞽女唄」を後世に伝承するための活動を続けている。記録映像などで、菅笠をかぶり、三味線を抱え、大きな風呂敷包みを背に雪道を数人が縦一列で移動する姿が一般的なイメージだが、冬の農閑期に限らず活動した。

 

  瞽女唄のすごさを分かち合える

 

 講座の企画を中心に担ったのが、同公民館の松永尚江さん(63)。きっかけは、小林の瞽女唄との出合いからだった。

 2009年、武蔵野市の吉祥寺美術館で「斎藤真一展 瞽女と哀愁の旅路」を見に行った時、会場で小林の瞽女唄がバックグラウンドミュージックとして流れていた。「彼女の唄を聴いて魂を揺さぶられるような感動に襲われ、たちまちその魅力の虜になってしまった」。

「瞽女唄ってすごい。自分が得た感動を多くの人たちと分かち合いたい」と、2018年2月、当時勤めていた田無公民館のロビーを活用するための企画として「 瞽女唄が聞こえる」を実施した。特に広報に力を入れたわけではなかったが、100人を超える人たちで会場はあふれる盛況だった。再演のリクエストも多く寄せられ、異動して来た保谷駅前公民館でも「 瞽女唄が聞こえる」の企画に取り組んだ。屋敷林保存会の協力も得られた。

 2019年はコロナ禍で中止を余儀なくされたが、翌年からコロナ感染防止対策をして実施に漕ぎ着けた。今回も来場者はマスク着用が求められる。

 会場は、旧高橋家母屋の8畳間を2部屋ぶち抜いて設営、定員25人。座るのがつらい人には椅子を用意している。

 

斎藤真一「朝の光」

斎藤真一の絵「朝の光」(萩原雄二さん所有)(筆者撮影)

 

 小関さんの隣には、斎藤真一の絵「朝の光」(「越後瞽女日記 冬の旅より」)が展示される。絵の展示は、会場近くに住み、前回から参加している絵の所有者、萩原雄二さん(70)の厚意による。「参加者が斎藤の絵を見て、瞽女をイメージする助けになればとの思いです」(萩原さん)。

 斎藤真一は岡山県出身の洋画家・作家で、東京美術学校(現、東京藝術大学)を卒業。パリ留学中に藤田嗣治と親交を結んだ。藤田の勧めで東北地方を旅行し、津軽地方で会った宿屋の主人から瞽女の話を聞き、強く心を惹かれた。「越後瞽女日記シリーズ」をはじめ瞽女の絵を数多く描き、瞽女に関する著述も多い。映画「吉原炎上」の原作者でもある。昨年は斎藤の生誕100年だった。

 当日は、午前(11時から12時)と午後(2時から3時)の2回制だが、残念ながら席は2月6日に申込受付と同時に満席となった。

 同館によると、参加出来なかった場合は講座終了後、西東京市が開設、運用する「西東京市動画チャンネル」(You Tube)で、この講座の動画が視聴可能という。
(鈴木信幸)

 

【関連情報】
・保谷駅前公民館 地域講座「瞽女唄(ごぜうた)が聞こえる」(西東京市Web
・西東京市動画チャンネル(西東京市You Tube

 

鈴木信幸
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