東久留米の緑の島・柳窪で春の特別見学会 3年ぶりに市民団体が開催

投稿者: カテゴリー: 環境・災害 オン 2023年4月8日

 このところのポカポカ陽気に誘われて、春の息吹を感じてみようと雑木林での散策を思い立ち、武蔵の面影が色濃く残る東久留米市の柳窪地区に出かけた。
 柳窪と言えば、市内に残る唯一の萱葺き屋根の古民家・村野家住宅が有名だ。国の登録有形文化財で主屋や付随する門、土蔵、宅地など全体で「顧想園」として保存されている。顧想園の価値や魅力の説明はまたの機会に譲るとして、柳窪とはどんなところかを紹介したい。

 

奥住家住宅

濃い緑に包まれた奥住家住宅

 

 幸いなことに、柳窪の環境と景観の保全活動をしている「東久留米の水と景観を守る会」(武石百合子理事長、会員60人)の会員・柘植正憲さん(75)が案内を買って出てくれた。

 武蔵野と言えば国木田独歩の小説を思い浮かべる人が多いと思う。国木田が描いた武蔵野は、当時の東京近郊の里山の雑木林だが、それを具体的にイメージできるところが柳窪なのだ。

 柳窪は東久留米市の西南端、黒目川源流部に位置し、集落の形成は江戸時代中期にまでさかのぼる。川の両岸地域約12.2ヘクタールは市街化調整区域(1990年2月指定)で、原則建物は建てられないので武蔵野の面影が残されている。

 資産価値が下がるのを承知で、市街化調整区域の指定を行政に働きかけて実現した屋敷林の所有者をはじめ地元有志の努力の賜物だ。

 柳窪には、東京都指定の柳窪緑地保全地域(1995年指定)があり、同時に指定された「散歩の道・柳窪コース」(6.3㎞)もある。天神社前の黒目川が蛇行しているところには、東京名湧水57選に選ばれた湧水がある。市指定の保存樹木は約200本もある。社寺林、竹林、雑木林、屋敷林が複雑に混じり合う林の中を、きれいに刈り込まれた丈の高いヒイラギモクセイの生垣に沿って散歩コースを歩いた。

 

生垣と屋敷林

きれいに刈り込まれたヒイラギモクセイの生垣と屋敷林

 

 川の右岸には顧想園をはじめ、7軒の古民家が屋敷林とともに連なっている。白壁の土蔵も約20棟ある。周りは住宅地などで市街化しているため、あたかも緑の島の様相を呈している。東久留米の水と景観を守る会の人たちが親しみを込めて「緑の島」と呼ぶのもうなずける。濃い緑の中を吹き抜ける春の風には土の匂いが感じられた。

 古民家と屋敷林を保全する上での大敵が、固定資産税と相続税。宅地だけで1,000坪を超す民家がほとんどで、毎年の固定資産税の支払いを凌いでも、巨額の相続税は物納か土地の切り売りで乗り切るほかない。先祖伝来の家屋敷を後世に継承しようと、それぞれの所有者が保全に知恵を絞っているが、個人の努力には限界が近づいている。

 柳窪を代表する古民家に住む奥住栄司さん(65)は、屋敷地にある2棟の土蔵の保全に頭を悩ませている。屋敷林を背景に立つ明治初年に建てられた木造2階建ての土蔵は、双子のようで人気の撮影対象だが、傷みが進んでいる。床の張替えや漆喰の塗り替えだけでも巨額の費用が見込まれる。現在住んでいる主屋は間口11間(約20m)、奥行5間(約9m)もあり、その維持費用だけでも捻出するのに頭を悩ませている。「建物や屋敷林に歴史的、文化的価値はあっても、収入は得られません。先祖が守り残してきた財産をこれからも維持していくとなると、税金の減免だけでは無理。行政が買い上げるなど市民の共有財産として有効活用する方法を考えてほしい」と話す。

 古民家の保全には意外な強敵がいた。奥住家の隣の野崎家では、特定外来生物のハクビシンが出入りしている。軒下から家までの幅で撒かれた石灰が家を一周している。ハクビシンが石灰の上を歩けば足跡がついて侵入経路が特定できる。害獣でも特定外来生物は所有者でも勝手に捕獲はできないので、侵入口を塞ごうというのだ。

 

見学会

顧桑園(村野家住宅)での見学会の様子(2019年秋)

 

 所有者や守る会の人たちの活動で、いまのところ柳窪の屋敷林や景観は守られているが、柳窪の地名や場所を知らない人は意外に多い。これまで学習会や見学会などで柳窪の歴史的、文化的価値の知名度アップに努めて来た守る会の活動は、コロナ禍で休止を余儀なくされたが、4月29日に3年ぶりに春の柳窪特別見学会を実施する。

 柘植さんは「百聞は一見に如かずと言いますが、柳窪の魅力は実際に来てもらえれば誰にでもわかります。4月の見学会には多くの人たちに来てほしい」と再開に期待を寄せる。会の案内で顧想園をはじめ古民家群を見て回れる。

ちらし

見学会のちらし(クリックで拡大)

 柳窪の古民家群を見て回るときには注意が必要だ。どの家も人が住んでいて公開していないので、勝手に屋敷地に立ち入らない気配りが必要だ。まずは、散歩の道を静かに歩くか、守る会が開催する学習会や見学会への参加を勧めたい。

 4月29日の見学会についての問い合わせと参加申し込みは、ハガキかメールで4月14日(金)まで。
 住所:〒203-0023 東久留米市南沢1-5-13-002 東久留米の水と景観を守る会 武石百合子
 メール:mizu.keikan@gmail.com
 電話:042-472-0342(武石)

 見学会の案内は、東久留米市の「広報ひがしくるめ」にも掲載されている。
(鈴木信幸)(写真はいずれも柘植正憲さん撮影)

 

【関連情報】
・柳窪見学会2023春 開催(NPO 東久留米の水と景観を守る会のブログ
・国登録有形文化財「村野家住宅」春の特別見学会(広報ひがしくるめ、2023年4月1日号4面
・東京の名湧水57選(東京都環境局

 

鈴木信幸
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