「地域の心のよりどころ」の思い新たに 田無神社御遷座三五〇年大祭記念誌出版で講演会
西東京市の田無神社が刊行した御遷座三五〇年大祭記念誌の出版記念講演会が5月27日、田無町のコール田無イベントルームで開催された。関係者ら約70人が出席し、記念誌への寄稿者3人による講演が行われた。田無神社の賀陽(かや)智之宮司は「10年以内に記念誌の第2弾を刊行したい」とも話した。
昨年末に刊行された記念誌「写真と資料から見る田無神社」は、1000点を超える写真、資料とともに、神社の由緒から2020年の御遷座三五〇年大祭までの軌跡を紹介。明治、大正、昭和、平成、令和の同神社と地域の変遷もわかり、賀陽宮司は「郷土愛をはぐくむきっかけになれば」としている。
この日の講演会では、田無神社氏子総代の新井浅浩さん、氏子青年部長の浜中義豊(のりかた)さんが、「地域の氏神様の歴史、先人の思いがこの本で感じられる」「地域の心のよりどころとして神社を敬って守っていくことがわれわれの責務」などとあいさつした。
続いて記念誌に寄稿した成蹊中学・高等学校教諭の行田健晃(たけあき)さん、郷土史家の近辻喜一さん、武蔵野大学教授の廣瀬裕之さんが登壇。改めて田無神社と地域のかかわりなどについてそれぞれ講演した。
行田さんは田無村で18世紀後半から名主を務めた下田半兵衛(代々の当主が襲名)について、名主として村の人たちの支持を得るためにいかに尽力したかを解説。水が乏しかった村のために玉川上水から取水する田無分水の許可を得たり、一村につき年一両の「水料金」を私財で払ったり。小麦粉の製粉や脱穀などができる水車の設置、上水の取水を制限された渇水危機の際、制限の緩和を幕府に訴願し、認められるなどの活躍ぶりを紹介した。
幕府への訴願の書状は、田無神社初代宮司・賀陽玄順の父で、医師として諸国修行の途上、半兵衛に請われ田無に定住した賀陽玄雪が書いたもので、「玄雪と半兵衛が力を合わせて村の危機を救った」という話も。
近辻さんは谷戸地域で発見された鎌倉時代・延慶年間(1308~11年)の卒塔婆「延慶(えんぎょう)の板碑(いたび)」(市指定文化財)の存在から、約800年前にはこの地に人々が住んでいたこと、その後、豊臣秀吉による太閤検地から田無の歴史が始まったことを指摘。慶長11~12(1606~1607)年の江戸城拡張工事のための石灰を運搬する青梅街道が開かれ、宿場町として谷戸から現在の田無に人が移った経緯、その後、谷戸の宮山にあった尉殿(じょうどの)権現社が現在の田無神社の地に遷座したことなどを説明した。
青梅街道にまつわる話題では、田無で1949年から始まり、閉鎖した青梅街道などを舞台に行われた「仮装大会」を紹介(参考資料として仮装大会を扱ったひばりタイムスの北多摩戦後クロニクルの記事も配布)。「関東一の仮装大会」とも言われる規模だったが、青梅街道の交通への影響から1960年を最後に終了。同イベントを近辻さんは「田無が輝いていた時代だった」と評した。
講演の最後は、書道史や石碑の研究が専門の廣瀬教授が玄雪や玄順が揮毫したとされる石碑などについて語った。「江戸時代の田無で一番書がうまかった」という玄雪が揮毫したものには、現在の総持寺に建つ「大施餓鬼供養塔碑」があるが、田無小学校校庭に建つ「養老畑碑」も玄雪の書とされる。養老畑は半兵衛が所有する畑の収穫物で得た金銭を村の70歳以上の老人に与えるためのもの。同じものを養老田とも呼び、のちに玄順が揮毫し、市内に建つ「養老田碑」とともに、それぞれの書の味わいなどを説いた。
また、半兵衛が19世紀半ばに近隣の村々を仕切り、小金井桜の植え替えを行った際、玉川上水沿いに建てた「桜樹接種碑」(小金井市)をめぐる話や、江戸時代に吉祥寺や三鷹など近隣の村で一番栄えていたのが田無で、「半兵衛さんが田無、田無神社のために尽くし、一番にしてくれた。この街がさらに発展していくといい」と結んだ。
講演後、賀陽宮司は「記念誌の原稿を書いている3年間が人生で一番楽しい瞬間でした。今、また書庫の整理をしているので、10年以内に第2弾の記念誌を刊行したいと思っています」と話した。
この日出席した地域史研究グループの60代男性は、「神社の表面的なことだけでなく、由緒や神社から広まった田無の歴史を知ることができました。これからもっと地域のことを学びたい」。50代の女性も「地元で生まれ育ち、神社の近くに住んでいます。コロナ禍の間も神社に日参し、いつも寄り添っていただいた。きょうは石碑のことなども熱く語られて、今度石碑を見て歩きたくなりました」と目を輝かせていた。
記念誌は2024年3月31日まで田無神社社務所で販売(税込み3000円)。問い合わせは田無神社(☎042-461-4442)へ。
(倉野武)
【関連情報】
・「写真と資料から見る田無神社」出版記念講演会(田無神社)
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