4月以降の物価・賃金・消費から占うアベノミクス

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2015年6月7日

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第4回

師岡武男(評論家)
 
 

  4月以降の物価、賃金の数字が要注目だ。なぜかというと、1年前と比べて、物価では消費税による値上がり分が共通となり、賃金はアベノミクスによる増額分が上乗せされるからだ。つまり消費生活面からのアベノミクスの素顔が見えやすくなるのである。

 注目点は、実質賃金が前年同期と比べてプラスになるかマイナスになるか、である。実質賃金とは、名目賃金を消費者物価指数(CPI)で割り引いたもので、プラスなら実質収入増となるから実質消費も増え、実質経済成長の要因になる。マイナスならその逆である。従ってアベノミクスの成否を占うカギとなる。

 アベノミクスが当面の目標としているのは、物価が2%程度上がり、名目賃金が3%程度上がって、実質賃金が1%程度上がり、実質経済成長が1%程度になる、という図式である。15年度の政府経済見通しは、名目2.7%、実質1.5%、消費者物価1.4%の上昇である。

 では4月の実績はどうだったか。物価は0.6%、名目賃金は0.9%、実質賃金は0.1%上昇、実質家計消費は1.3%減少だった。大まかに見ると、物価は多少上がり、実質賃金は僅かに上がったが消費はがた減りした、という形になった。物価と実質賃金の上昇は景気回復のパターンだが、消費のがた減りは不況の姿というチグハグなものだ。5月の成り行きをみたいところだが、4月だけでもかなりの問題点がわかる。

 名目賃金の僅かな上昇でも実質賃金が上昇したのは、物価の上昇がごく僅かだったからだ。今後を考えると、賃金水準はほぼ不変だろう。物価は円安や消費税の後追いなどの上昇要因があるから、実質賃金はまたマイナスになるかもしれない。逆に、消費停滞で物価が上がらなければ、デフレ下の実質賃金上昇だ。どちらでも困るのだ。

 それにつけても4月の消費の低迷は驚きだ。昨年の4月の消費は、消費税前の駆け込み需要の反動で4.6%も激減した。今年はそれよりもさらに1.3%減ってしまった。消費がもしこのままマイナスを続けてしまったら大変なことになる。政府経済見通しでは15年度の消費支出は2.0%増なのだ。

 以上のような4月の実績から見て、15年度の経済見通しは実現可能だろうか。甚だあやしいのではないか。消費が伸びて物価が上がり、デフレを脱却し、民間投資も増えて経済成長の「好循環」が始まる、というのがアベノミクスだが、消費と物価の上昇は到底期待できないだろう。とすれば、民間投資の増加も難しい。残された需要拡大要因は対外需要と財政支出である。

 アベノミクスは、金融緩和、企業減税、規制緩和、消費税増税先延ばし、賃金引き上げ勧奨などを実施してきた。これらの施策が今後新しく「好循環」実現への効果を発揮できるだろうか。そうはならずに、物価が少し上がれば実質賃金はマイナスとなり、投資も対外需要も伸びない、という「事態」になるかもしれない。もし物価が下がれば、賃金はプラスになるがデフレの継続だ。

 政策転換の必要が刻々と迫っているのではないだろうか。そうなれば、安倍首相も「この道しかない」と言ってはいられなくなるだろう。ではどうするか。野党に「対案を出せ」と言って胸を張れるのは、政策がそこそこうまくいきそうなときだ。失敗しそうなときには、いち早く自ら「対案」を出すのが政府の責任だ。もちろん野党も評論家も学者も対案を出した方が良い。

 評論家としての一案を言ってみよう。まずは「ケインズ主義」の有効需要拡大政策を全面的に採用することだ。当然財政拡大や減税が含まれる。まずは、というのは、それでもうまくゆかない事態も想定されるからだ。日本経済も世界経済も、それぐらい難しい事態に直面しているのである。
(註) 経済指標出所:賃金は厚労省「毎月勤労統計」、物価と家計消費支出は総務省統計局

 

【筆者略歴】
 師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成 戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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