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あたりまえを伝えていく努力 田無神社本殿・拝殿の特別拝観

By in 歴史・伝統 on 2018年11月29日

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 毎年11月は、縁起物の熊手を威勢よく捌く、酉の市の季節。西東京市の田無神社は一の酉、二の酉、三の酉の3日間、本殿・拝殿を特別拝観する機会を設ける。普段は見ることの出来ない「奥の間」で何を見たのか、どんな感想を抱いたのか-。卯野右子さんの報告です。(編集部)

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 来る年の開運招福・商売繁盛を祈る酉の市が、11月1日、13日、25日と田無神社で催行された。平日開催の一の酉、二の酉は叶わなかったが、週末の25日、三の酉にようやく訪れることができた。境内には縁起物がたくさんついた大小色とりどりの熊手が並び、舞殿でのライブや田無囃子保存会によるお囃子もお祭りを盛り上げていた。

 

夜更けの鳥居

 

 田無神社の本殿は江戸後期の安政5年(1858年)に大工鈴木内匠、彫工嶋村俊表が建築し、東京都指定有形文化財となっている。嶋村俊表は川越氷川神社本殿や成田山新勝寺釈迦堂の彫刻も手掛けた名匠。総檜の本殿は総彫り物づくしと言われるだけに、梁・欄干・柱・桁をはじめ正面御扉・木鼻・腰組・階段に至るまで見事な彫刻装飾が施され、神社案内にも「俊表の神髄を極めたと言っても過言ではない」と記されている。

 大酉祭が催行される3日間は午後6時から8時まで本殿・拝殿の特別拝観ができる。火災を防ぐ目的で本殿を覆うように造られた覆殿に一般の人が入ることができるのは1年でこの行事の時だけだ。三の酉の最終日も、この貴重な機会を逃すまいと多くの人が並んだ。

 特別拝観は、通常ご祈祷を受ける拝殿から、神職が儀式を執り行う幣殿を跨ぎ、神様がまします本殿を間近に拝める覆殿内部へと進む。写真撮影は不可となる。

 

拝殿に施された龍と鳳凰の彫刻

 

 拝殿の欄間は四季を描いたものと神職が言う。春は梅の花咲くお正月、夏は蓮の花とすっぽん、秋は紅葉と祭りの山車の光景、冬は雪遊びに興じる唐子。「唐風の衣装・髪形をした子どもは江戸末期から流行したモチーフ」と説明があった。

 興味深かったのは「すっぽんと夏が結びつく人がどれくらいいるでしょうか」と神職が参加者に問うたことだ。「すっぽんは亀と同じく冬眠するのでその直前脂がのって美味しい。食材として今は馴染みが薄いすっぽんだが、夏にはうなぎのように滋養強壮のため食されたのだろう。現在はうなぎの稚魚が希少となっており、この先うなぎが夏の食べ物として認識されなくなる時代が来るのかもしれない」と懸念する。

 続いて拝殿欄間の対面に掛けられた大絵馬の説明。「先輩からは大砲だとの説明をうけた。描かれた明治33年は日清戦争が終わり日露戦争へと続く時世だが、ふと疑問が湧いた。こんなに大きな大砲があったのかと。伊勢神宮ご遷宮の際に使われた神木だった可能性はないのか機会があれば調べてみたい」と神職は語った。

 欄間の例、絵馬の例、どちらも描かれた当時自明だったものが、時を経て意味が伝わらなくなり、いわれが不明となったものだ。その間ほぼ150年。「祖父、曾祖父の時代から繋がっていると感じていても、途切れてしまったものが多くある。あたりまえのことはすぐに失われがち。大切なことは記録しよう。あたりまえ、大切なものを守り伝えていくことで、いずれかがやく珠となる」と語った神職の言葉が記憶に残った。

 覆殿に進み本殿を拝観。正面扉には湧き水から水を汲む図があり、谷戸から移り住んだ祖先への労いと、金龍神として顕現された水の守り神である尉殿大権現への厚い信仰が見られる。東側面は、位を譲る「禅譲」の語源となった中国皇帝大舜が、幼少期に象に助けられて荒れ地を耕す様子が表されている。厳しい政治の暗喩として描かれた人食い虎や、本殿建立に貢献した下田半兵衛を中国故事に描きこむなどの工夫も見られ、どの面も見事な彫りに圧倒された。

 本殿上部には、四方八方を睨み神様をお守りする龍、唐獅子、象、獏が張り出し、近づくものを射すくめるような眼光も圧巻。当時本物を見たことがない俊表が彫った象は、耳の付き方が実際の象のものとは異なっているが、長い鼻と牙は迫力満点。夢を食べるとされる獏も長い鼻と牙を持ち、耳の後ろには渦巻き状の巻き毛があり象とは区別されていた。下り龍、上り龍の躍動感はまさに風を受けて飛翔するが如しであった。

 拝観会は20分~30分とお知らせにあったが、筆者が参加した回は優に40分を超えていた。丁寧な説明には、大切なものを語り継いでいきたいとする神職の気持ちが込められていた。

 

色とりどりの熊手が並ぶ

黄金に色づいた神木の大銀杏

 

 月半ばまでは緑色だったという神木の大銀杏も、三の酉には黄金に色づき境内を彩っていた。季節の移ろい、時間の流れは早い。拝殿と本殿、日常と非日常、この世とあの世を行き来した貴重な体験は、大切なもの、次の世代に繋げていかなければならないものを考えるきっかけとなった。
(卯野右子)

 

【関連リンク】
・酉の市「本殿特別拝観会」のお知らせ(田無神社
・天才・嶋村俊表の彫刻(田無神社

 

【筆者略歴】
 卯野右子(うの・ゆうこ)
 西東京市新町在住。金融会社勤務。仕事の傍ら「アートみーる」(対話型美術鑑賞ファシリテーター)と「みんなの西東京」の活動に携わる。東京藝術大学で「アート×福祉」をテーマに、アートがいかに福祉の分野で貢献できるかを勉強中。

 

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