湯浅誠さんが語る「子ども食堂の現状と課題」 意外な人たちが全国で始める

投稿者: カテゴリー: 子育て・教育 オン 2019年1月16日

講演会チラシ(クリックで拡大)

 小平市の市民活動支援センター(愛称あすぴあ)で1月12日、法政大学教授の湯浅誠さんを迎えた講演会「子ども食堂の現状と課題」が開催されました。豊富な事例を基に、「各小学校区に一つの子ども食堂を」と語る湯浅さんの話を、多くの人たちとともに西東京市の子ども食堂を進めてきた石田裕子さんが報告します。(編集部)

 

 

 昨年12月8日、西東京市の「ともに活きる!まちづくり キックオフ・フェス~地域共生社会を目指して」のシンポジウムに参加した。そこで私は、自宅近くにある子ども食堂「放課後キッチン・ごろごろ」の活動を発表した。そのとき「こども食堂安心・安全向上委員会」が調査した資料を使いたいと代表の湯浅誠さんにお願いしたら、「どうぞお使いください」と快い返事をいただいた。そんな経緯もあって湯浅さんにお会いしたいと思っていたところ、1月に小平市で講演会があると知り、喜び勇んで出掛けた。

 小平市では3年前の2016年2月、「子どもの貧困について小平で考えよう」という交流サロンが開かれ、第1号の子ども食堂「まるちゃんカフェ」がその後始まった。

 「市内の子ども食堂は増えています。子ども食堂を進めていくうえで、出てきた不安や疑問を解決するために、湯浅誠さんのお話しを聞いてみたい、ということで今回の講演が実現しました」。あすぴあセンター長の田原三保子さんに開催の切っ掛けを尋ねると、こういうお話が返ってきた。

 

各地の事例を紹介する湯浅誠さん

 

 全国にその名がとどろく講師の湯浅さん。話の始めは意外にも「僕は小平市出身で、13小(小平第十三小学校)と小平2中(小平第二中学校)で学びました」と、ジモティ(地元育ち)であることのアナウンスだった。

 余談ですが、と言いつつ語る子ども時代のエピソードで、車椅子を使っているお兄さんとの思い出話があり、笑ったり涙ぐんだりして聞き入った。話は後半に出てくる「誰も取りこぼさない社会」のテーマにつながっていった。

 

全国区の子ども食堂、変わり種編

 

 「福祉」ではない意外な人たちが子ども食堂と関わり始めた。湯浅さんが紹介した話はバラエティに富んでいた。

 1.お笑いの吉本興業が開校した沖縄県那覇市の「沖縄ラフ&ピース専門学校」。その1階で、子ども食堂が開かれている。吉本興業の大崎洋社長の亡くなった奥さんが生前、「うちの子どもたちはぐれないよ。三度三度飯を食わしてるから」と言っていたのも、子ども食堂をはじめるキッカケに。「何を伝えたいとか思わない。雑談する中で、何かを感じてもらえれば」 。

 2.コンビニのファミリーマートで、埼玉県を中心にイートインスペースで(子ども食堂が)始まっている。

 3.岡山県・株式会社 ハローズの取り組み
 ハローズが経営しているスーパーでは、消費期限の1日前に食品を陳列棚から撤去するが、その際に、子ども食堂を運営している人たちが行って、欲しい物を直接選んでもらう仕組みをつくった。

 食品ロスの破棄費用削減と、子ども食堂への支援は、まさにウィンウィンの関係で、スーパーでは、廃棄料を6000万円浮かしたとのことだった。担当している方は「ハローズモデル」として、全国に広めたいと言っているそうだ。

 賑わいをつくりたい。そこからこぼれる人をなくしたい。子ども食堂で賑わいをつくりたい。はじかれる子どもをつくらない。地域交流でもある。

 

印象に残ったこと

 

 そのほか講演を聞いて、印象に残り、考えさせられたことをいくつか挙げてみたい。

2種類の貧困
 貧困には2種類ある。黄色信号の貧困と、赤信号の貧困。
 例えば、黄色信号の貧困では、「修学旅行に行けない」。修学旅行に行かないと死んでしまうのか。退学になるのか。進学できないのか。たかだか修学旅行に行っていないだけ。でも修学旅行は行って終わりではない。その後に「ぼっち(ひとりぼっち)」が生まれる。誰でも行ける場所、オープン型で黄色信号の子が青信号の顔して行ける場所が必要。

 赤信号の子は目立つけど数は少ない。訪問や保護に専門家が必要である。
 黄色と赤の対応を一回分けて考えてみる。
 福祉、行政が赤信号の対応をしてくれるか。赤信号の対応は覚悟を持ってしないとトラブルになる。行ったことが不幸になる。専門職と関係をつくること。

つながりはつくれる
 お金がない。つながりがない。自信が持てない。
 そんな子どもに対して、お金については無力であるが、つながりはつくれる。

貧困の連鎖
 貧困の連鎖を断つ、と言っても簡単には断てない。生育環境を相対化するのが難しいからだ。例えば、お鍋料理を家庭で食べたことのない子ども。お鍋をみんなでつつくのは、テレビの中の話しだと思っていた。「家でお鍋を食べたことがない」と言った後の周りの反応で、やっとほかの家ではお鍋を食べていることに気づく。なんかしんどい。とても辛い。そう思っても子どもには、親と家庭が全てとなることが多いからだ。

市民にできること
 学習支援というと、私、英語はできません、因数分解は忘れました、という大人がいる。しかし学習支援は、基本的な生活体験を教えることでもある。特別なことができなくても構わない。多様な人達と関わることが、その子にとってプラスになる。

時代が求めている子ども食堂
 2年間で2000カ所増えている子ども食堂。人と一緒にいる。共にあることの価値。SDGs(エスディージーズ)、持続可能な、誰一人取り残さない社会の実現。この理屈は、子ども食堂と同じ。地域で何ができるか。自信を持ってこの芽を育てていきたい。

 

ハローズモデルが欲しい!

 

 あすぴあは、廃校した小学校が生まれ変わり、「元気村」となった場所にある。50人定員ではもったいない。あすぴあセンター長の田原さんによると、20人はお断りしたとのこと。会場入り口のポスターにも「定員になりました」との貼り紙があった。

 

会場となった小平市の「あすぴあ」

 

 湯浅さんが「話しの途中でも良いから、わからないことがあったら質問して」と声をかけした。そんな言葉もあってか「子ども食堂の数はどうやって調べたんですか」「ウィンウィンですね!」などの質問や意見が飛んだ。

 わかりやすい言葉で自分の生い立ちなども含めて、優しく、笑いを交えて話す湯浅さんに、会場全体が温かい空気になった。

 「各小学校区に一つの子ども食堂を」との言葉には、わたしも大きくうなづいた。子ども食堂を運営しながら、「自信を持つ」ことがなかなかできない人たちがいたとしたら、湯浅さんの最後の言葉に、会場のみんなが励ましてもらえたと思う。

 西東京市でも、どこかのスーパーでハローズモデル、やって欲しいなぁ。
(石田裕子)(写真は筆者提供)

 

【関連リンク】
・講演会「子ども食堂の現状と課題」(小平市民活動支援センターあすぴあ
・1Fのフリースペースを活用した「子ども食堂」の開催(沖縄ラフ&ピース専門学校
・ファミマ、県内3店舗で「こども食堂」開催 県と連携 イートインスペース活用、大人数で弁当 仕事体験も(埼玉新聞
・第6回もったいない大賞「農林水産省食料産業局長賞」を受賞(ハローズ、PDF:115KB

 

【筆者略歴】
 石田裕子(いしだ・ひろこ)
 夫と長男と、猫2匹が現在の同居家族。PTAが大好きで、谷戸小学校では2回、田無二中でも2回のPTA会長を歴任。人生のテーマが「子ども支援」。育成会や遊び場開放で、子どもとふれあいなから、市内2カ所の子ども食堂に関わる。谷戸小学校施設開放運営協議会管理者、青少年育成会メタセコイア 副会長、西東京わいわいネット 事務局長、放課後キッチン・ごろごろ代表など。

 

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