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東京都美術館で障害のある方のための特別鑑賞会 アート・コミュニケータ「とびラー」がサポート

By in 交流・共生, 芸術・文化, 学ぶ on 2019年6月6日

学芸員によるワンポイント・トークでは、手話通訳に加えて文字表示も

 「おはようございます!」「ごゆっくりお楽しみください」ー。特別展が休みの月曜日、参加者を招きいれるスタッフの声が聞こえる。上野動物園隣のレンガ色の建物が目を引く東京都美術館。5月20日に「障害のある方のための特別鑑賞会」が開かれた。

 

レンガ色が美しい東京都美術館

 

 東京都美術館は年に3~4回の特別展を開催している。今年度は「クリムト展 ウィーンと日本1900」が会期中。秋以降は「コートールド美術館展」、来春の「ハマスホイとデンマーク絵画」を開催予定。

 

受付準備

 

 特別展は人気が高く、非常に多くの来場者がある。「障害のある方のための特別鑑賞会」は、通常混雑している特別展を、車椅子や杖を使った方、視覚障害や聴覚障害のある方にも安心して鑑賞できるよう、普段は休みの月曜日に開催される。

 ゆったりとした空間で名画を鑑賞できる貴重な機会と、「クリムト展」には多くの応募があった。当日は介助者を含む約1000人が訪れた。

 グスタフ・クリムトは19世紀末ウィーンを代表する画家で、華やかな装飾性と世紀末的な官能性をもつ作品が人気。本展は過去最多となるクリムトの25点以上の油彩画を展示。金や貴金属を使った油彩画や、分離派会館の壁画の複製などもみどころとなっている。

 この企画を支えるのは、美術館スタッフに加えて「とびラー」と呼ばれるアート・コミュニケータたちだ。アート・コミュニケータは、ボランタリーに活動する新しい市民参画のスタイルで、アートを介して誰もがフラットに参加できる対話の場を企画し、価値観の異なる多様な人々を結ぶ活動に取り組む。

 愛称の「とびラー」は、東京都美術館の「都美(とび)」と、「新しい扉(とびら)を開く」の意味が掛け合わされている。会社員や教員、フリーランサー、専業主婦、退職者、学生を含む18歳以上のバックグラウンドも様々なメンバーだ。当日は77人の現役とびラーと3年任期を満了し独自のNPOを立ち上げた元とびラーたちがシフトを組み参加した。

 

模型を上からも見られる画像をiPadで表示

 

 とびラーは、会場設置の事前準備を含め、障害者車両などで来場する方の出迎え、受け付け、誘導、エレベーターの乗り降りなどをサポートした。トランシーバーで連絡をとりあい、必要があれば駆け付けられる態勢も組んだ。

 展覧会を担当した学芸員による展覧会ワンポイント・トークは、聴覚障害の方のために手話通訳付きで実施し、モニターを使った文字表示も行った。目が不自由な方とは、とびラーが一緒に作品を鑑賞しながら、作品がどのようなものか、どのように感じるかなどを言葉にして伝え、共に楽しむ。盲導犬と一緒に来場した方もゆったりと鑑賞されていた。

 

作品画像を手元で拡大して観るためのiPad

 

 筆者もとびラーの一員として、iPadを使って鑑賞をサポートした。車椅子などのために絵画の近くに寄りにくい方、視点の高さがあわず見えにくい方に、iPadに保存した約40枚の画像を拡大して見てもらった。特に鉛筆で描かれたデッサン画は、筆圧も薄く視力がよい方でも見えにくい作品だったので、それらの近くで待機し、要望があれば拡大画面を表示した。

 妊婦が大きくなったお腹に手をあてているデッサン画 ≪立つ妊婦≫ を拡大してみると、母となる喜びにあふれた女性の口元の表情が浮かび上がる。「今、赤ちゃんがお腹を蹴ったのかもしれないわね」と同じように感じた方が複数いて驚いた。これから生まれる子への慈しみに満ちた目元には「優しい目ね」とのコメントがあり、こちらの気持ちまで優しくなる心持ちだった。

 ≪立つ恋人たち≫ に「大きなマントね」と婦人がつぶやく。女性の表情ばかりに気を取られていたが、後ろ向きの男性の肩の大きさや背格好をマントから着目する視点も新鮮だった。

 

≪立つ恋人たち≫の図版が表示されたiPad

 

 「こんなふうに描かれてたのね」「よく見えたわ」「ありがとう」と何人もの方から声をかけてもらい、終日立ちっぱなしの疲れも吹き飛んだ。

 一言で障害といっても、状態は人さまざまだ。車椅子に乗っていて視点が低い場合には多くの展示物は高く感じられ、模型や平置きの展示物は、設置位置によっては上から覗き見ることは難しい。視力が弱い方も見えづらさを抱えている。

 多様な方々が共にたくさんの作品を楽しむこの鑑賞会をどのように作っていくのか、まだまだ工夫ができるところもあるだろう。美術館を訪れることが難しい方は、障害のある方だけではない。美術館は敷居が高いと感じている人。混んでいて面倒だと思っている人。美術館に行く機会のない子ども。来館した人々が、美術館という場で、どんな経験をし、どんな感想をもって帰路につくのか。その経験が未来にどうつながっていくのか。

 

 

参加者と談笑するアート・コミュニケータ

 

 東京都美術館のウェブサイトによると、同美術館は、アートを通して人々のつながりを育むようなアート・コミュニケーション・プログラム活動の実施に力を注いでいる。障害のある方のための特別鑑賞会以外にも、建築ツアー、キッズデー、先生向けプログラムがある。加えて、上野公園に集まる9つの文化施設が連携する子どもとファミリーを対象としたプロジェクト「Museum Start あいうえの」など多彩なラインアップだ。

 東京都美術館が目指す「人と作品、人と人、人と場所をつなぎ、美術館に集まる多種多様な人々とのコミュニケーションを大切にし、そこから創出される新しい価値」とは何か? それらはどう社会に浸透し、アートを介したコミュニティがどのように育っていくのか? 新米とびラーとしてコミュニケーションの現場に立ち会い、人との関りのなかでこれらの問いへの答えが見出せるのではと楽しみにしている。

 次回、障害のある方のための特別鑑賞会「コートールド美術館展 魅惑の印象派」開催日は10月28日。申し込み期間は9月2日~9月23日まで。身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳などを持っている方が対象となる。
 詳細は東京都美術館ウェブサイトまで(>> https://www.tobikan.jp/learn/accessprogram.html
(卯野右子)【写真:東京都美術館提供】

 

【関連リンク】
・障害のある方のための特別鑑賞会(東京都美術館
・とびらプロジェクト(HP
・Museum Start あいうえの(HP

 

【筆者略歴】
 卯野右子(うの・ゆうこ)
 西東京市新町在住。金融会社勤務。仕事の傍ら「アートみーる」(対話型美術鑑賞ファシリテーター)「みんなの西東京」「放課後カフェ」の活動に参加。東京藝術大学で「アートX福祉」を履修し、2019年4月より東京都美術館のアート・コミュニケータとして人と美術館を繫ぐ活動を開始する。

 

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