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平癒祈願の手足形1500点を初展示 武蔵野美大「手のかたち・手のちから」展

壁一面に並べられた手足形(会場:武蔵野美術大学美術館)

 福井県の仏堂に病気平癒のため奉納された「手足形」約1500点を展示した企画展「くらしの造形20 手のかたち・手のちから」が、武蔵野美術大学美術館(小平市小川町)で開催されている(9月21日まで)。箸やハサミなど手に関わる生活用具も併せて展示し、私たちの暮らしを支える手の造形と働きを探る展覧会となっている。

 

 手足形とは手や足をかたどった木製の奉納物を指す。同大の神野善治教授の調査チームは、8年にわたって福井県若狭地方の三方石みかたいし観世音の御手足堂に奉納された手足形の調査を続けてきた。その数、6万点余り。今回の展覧会はその成果を披露する初の試みとなる。

 手足に病気やけがを持つ人々が御手足堂から借り受けた手形や足形で、お経を唱えながら患部をさすって回復を祈願する。ご利益があれば手足形を返し、「願晴らし」として新しい手足形を納めてきた。

 

仏堂にあった状態を再現して積み上げられた手足形

 

 同様の民間信仰は各地に見られるが、三方石観世音の手足形は数量が突出して多く、仏師の手になる奉納品も含まれるなど造形的な魅力にあふれていた。さらにその多くに奉納者の居住地や奉納年が墨書され、江戸時代から現代まで約200年間に及ぶ民間信仰の実相を示す貴重な資料であることが分かった。

 展示室に入ると、まず2メートルを超す高さに積み上げられた手足形の山に目を奪われる。仏堂にあった状態を再現したものだという。壁一面に並べられた手足形は色や形、手相、指の開き方がそれぞれ異なり、思わず見入ってしまう。黒光りしているのは繰り返し患部をさすったためだろう。

 手形の2〜3倍の量に上るという足形の中には「イタイイタイ」「此処御助け下さい」などと記されたものもある。歳を取って足腰の疼痛に苦しむ現実は今も昔も変わらない。乳房をかたどった乳形もあり、母乳が十分に出ない母親の祈願ではないかと推測されている。

 

優れた造形を示す手足形も多数ある

 

 手と道具の関係を見るコーナーでは、手の機能を「つかむ」「たたく」「すくう」など11種類に分類し、それぞれに対応する箸や金づち、しゃもじといった生活用具約300点を展示している。同大教授だった民俗学者の宮本常一(1907〜1981年)が中心となって集めた民具約9万点の中から選んだものだ。

 このほか人形浄瑠璃の操り人形の手、青森のねぶたの手、イルカ、コウモリ、モグラなど哺乳類の手の骨格標本、筋電義手などさまざまな視点から手の造形と機能にアプローチしている。

 

青森のねぶたの手

人形芝居「阿波木偶箱まわし」の「三番叟まわし」

 

 9月12日は、徳島に伝わる一人遣いの人形芝居「阿波木偶あわでこ 箱まわし」の「三番叟まわし」が同美術館で披露された。正月に家々を回り、頭や両手で人形の手を受けて福を授かる伝統芸能で、人形の手が福を届ける霊力を持つとされていたことを示す。

 この日は展覧会の監修者である神野教授のギャラリートークも催された。手足形はもともと身体に入った病魔を肩代わりする「形代」だったが、やがて「片手観音」と呼ばれる三方石観世音の欠けた手の象徴となり、霊力が宿った「護符」の役割を担うようになったのではないか、という。

 

哺乳類の骨格標本の前で入館者に説明する神野善治教授

 

 「手足形の一つ一つが個性豊かで、当時の人々のすがるような思いが伝わってくる。古代のギリシャ、ローマの遺跡からも同様の奉納物が出土しており、こうした形の信仰と医療の結びつきは古今東西、普遍的に見られる現象だ」と話している。
(片岡義博)

 

【関連リンク】
・くらしの造形20「手のかたち・手のちから」(武蔵野美術大学美術館・図書館HP
・神野善治編『くらしの造形 手のかたち 手のちから』(武蔵野美術大学出版局)(Amazon
・お手足堂(「三方石観世音」公式HP

 

【筆者略歴】
 片岡義博(かたおか・よしひろ)
 1962年生まれ。共同通信社文化部記者として演劇、論壇などを担当。2007年フリーに。小平市在住。嘉悦大学非常勤講師(現代社会とメディア)

 

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