ミニチュアワールドにようこそ! 動物や小人がお出迎え 街と心にあかりが灯る
毎日の犬の散歩で楽しみにしていることがある。西東京市の南側を横切る「多摩湖自転車歩行者道」をご存知だろうか? 西東京市、小平市、東村山市を抜けて都立狭山公園の多摩湖堰堤に至る遊歩道だ。「水の神殿」をかたどったモニュメントが立つ五日市街道沿いの出発点から1㎞程進んだ右側にその楽しみが待っている。(写真は、ミニチュアの街にあかりが灯る)
畑が広がり「風景の窓 苗木のある西東京市」の空き窓看板がある付近に突然現れるミニチュアワールド。切り株や枝を利用したツリーハウスに並べられている動物。小さな扉と柵のあるバルコニーで豚が出迎えてくれる。列をなしてスターバックスに入っていく小人や豚の様子に思わず笑みがもれる。
そこを何度も行き来しているうちに日々変化のあることに気づく。子豚や動物の位置が変わっているなど小さな変化を見逃してしまうことも多いが、キューピーの家が移動し、突如池が出現、IKEAやアップルストアが立ち現れるなど、大きく変わることもある。
このミニチュアワールドを作り、道行く人々を楽しませている人はどんな方だろうと想像が膨らんだ。いつか制作者に会えるのではと期待して犬の散歩の回数を増やした。時間を少しずらしたりもした。
その願いが叶ったのは、ある晴天の週末、机に野菜を置きはじめた男性がいる! 「失礼ですが」と声をかけた。「これらを作られた方ですか?」「はい」との返事。「やっとお会いできました!」「作者が美大の女子学生でなくて、こんなおじさんでごめんね」とジョークを飛ばしたのは、新井隼也さん。畑の端、遊歩道に一番近くの見やすい場所に、動物たちの街を作った本人だった。
天気の良い日には、マスクをした人々が散歩やジョギングに行きかう遊歩道。小学生2人がミニチュアの街を眺め語らっている。かがんで写真を撮る大人もいる。幼子は動物や小人の世界に惹きつけられてその場を動こうとしない。おとうさんはちょっと困り顔ながらも見守っている。そんな風景が見られた。
その後、毎日のようにこの場所を往復しているが、新井さんにお会いできたのはこの4か月でたった一度きりだ。その時は机に野菜や花を並べてこれから販売というタイミングで、名前を伺い掲載の許可を得るのが精いっぱいだった。聞きたいことはあったが、仕事の邪魔になるのではと気が引けてその場を後にした。
ある日、白雪姫の小人が数人、ストーンヘンジの内側でモアイ像と向き合っている。人類の未来を憂いて首脳会談が開かれているのか? 会談は連日深夜まで続いていた。外出自粛期間には伝説の妖怪アマビエまで登場した。
「通る人に少しでも楽しんでもらえたら」と新井さんは語った。外出自粛解除後は感染者数がさらに増え、身近な場所で感染者が出た話や消毒のため休業したお店の例などが漏れ聞こえてくる。災害のニュースに心痛む日も、雨が続き憂鬱な日も、青空が戻った清々しい日も、怖ろしいほどに赤い夕焼けの日も、毎日同じ場所で小さな動物たちが出迎えてくれる。
日暮れの散歩では、太陽電池を利用した小さな街灯に照らし出されるミニチュアの風景にホッとする。次は何を作ろうかと思いめぐらし、仕事の合間に新たなシーンの制作に精を出す新井さんの姿を思うと、心にあかりが灯るようだ。
さあ、今日も散歩に出かけよう。ミニチュアの動物たちに会いに。
(卯野右子)(写真はいずれも筆者撮影)
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「ミニチュアワールドにようこそ!」 見ごたえのある写真がたくさんあって楽しいですね。
写真も記事もさすが、です。
三角さま、ありがとうございます。犬の散歩の途中に撮り溜めた写真です。作者の新井さんとお会いできたのは本当に幸運でした。