武蔵野美大で寺山演劇「奴婢訓」を上演 美術館を幻想的な舞台空間に

投稿者: カテゴリー: 文化 オン 2019年7月7日

作品では靴が重要なモチーフとなる(写真は「演劇実験室◎万有引力」提供)

 1978年の初演以来、世界各国で上演されてきた寺山修司主宰の劇団「演劇実験室・天井棧敷」の代表作「奴婢訓」が7月2〜7日、武蔵野美術大学(小平市小川町)で上演された。作品の舞台美術を担当した小竹信節・同大教授の退任記念公演として、天井桟敷の演劇スタイルを継承する「演劇実験室◎万有引力」が大学美術館内で幻想的な舞台を繰り広げた。

 スウィフトの諷刺作品を原作として寺山修司(1935〜1983年)が作・演出した「奴婢訓」は、主不在の館で下男、下女たちが交代で主人役を演じる乱痴気騒ぎを、宮沢賢治作品の表象を引用しながら倒錯的に描き出す。白塗りの裸身、グロテスクな化粧、奇態な動きをする男女が舞台にひしめき、「アングラ演劇」と呼ばれた土俗的でスペクタクルな要素を濃厚に含んだ作品だ。

 

開演前、美術館周辺には白塗りの役者が出没(筆者撮影)

 

 国内外から高い評価を得て、初演から5年間に世界31都市でロングラン上演。「天井桟敷」が解散した1983年以降は、J・A・シーザー率いる「万有引力」が引き継ぎ、これまで250回以上の公演を重ねてきた。

 舞台に強烈なインパクトを与えたのが、小竹氏による機械仕掛けの装置だ。無機的なからくり機械が、役者の生身の肉体や、東北農村の民具と融合して、舞台に鮮烈な異化効果をもたらしている。

 「奴婢訓」や「レミング」など後期寺山作品すべての舞台美術や映画美術などを担当した小竹氏は、国内外の演劇、オペラ、コンサートなど数多くの舞台美術を手がけ、1997年からは武蔵野美大空間演出デザイン学科教授として後進の育成に努めてきた。

 今回、美術館1階中央のアトリウムを非日常な演劇空間に作り変えるという初の試みに挑んだ。打ちっぱなしの吹き抜け空間に高さと奥行きのある立体的な舞台を創造し、開演前には会場周辺に白塗りの役者が出没するなどして美術館全体を劇場に仕立て上げた。

 

装置の鉄棒が回転し、左右の人物の上下が度々入れ替わる

異形の男女がひしめく舞台(写真はいずれも「演劇実験室◎万有引力」提供)

 

 役者陣には同大学生もオーディションで参加。1公演220席のチケットは早くに完売し、観客は若い世代を中心に白髪交じりの“アングラ世代”も散見された。

 小竹氏は「自分にとって寺山との一番の思い出の作品で、これほど舞台美術が力を発揮できる舞台はない。初演から40年余り経っても力を失っていないのはなぜか。次世代の学生たちに身近にある空間で生の舞台を体験し、今後の自分たちの現場に生かしてほしい」と話していた。

 演出・音楽は J・A・シーザー、美術・機械工作・衣裳・メイクは 小竹信節、構成台本・共同演出は 髙田恵篤。
(片岡義博)(写真は「演劇実験室◎万有引力」提供)

 

【関連サイト】
・小竹信節 退任記念公演『奴婢訓』(武蔵野美術大学美術館・図書館HP

 

【筆者略歴】
 片岡義博(かたおか・よしひろ)
 1962年生まれ。共同通信社文化部記者として演劇、論壇などを担当。2007年フリーに。小平市在住。嘉悦大学非常勤講師(現代社会とメディア)

 

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