「小さな賑わい」をつなぐ 「にわジャム2020」9週間の試み
「まちにわ ひばりが丘」が10月24日から12月20日までの9週間にわたり、「にわジャム2020」を開催した。ひばりが丘団地のコミュニティ組織として活動を始めてから5年。新型コロナウィルス感染症の拡大を懸念して地域のイベントが見合わされる中、「こんな時だからこそつながりを大切にしたい」という思いを胸に、「小さな賑わい」をつなぐ新しいイベントの形を模索した。期間中晴天に恵まれ、来場者は延べ3000人に上った。
小さな会場で、繰り返す出会い
日頃は子どもたちが走り回って遊んでいる芝生の広場がメイン会場。ガーランドで仕切り、入り口はアーチのゲート。訪れた人には「検温」「連絡先の登録」の協力が求められた。各ブースが離れ、「3密」を避けている。小さい規模でも「イベント」であることが意識されていた。
木工、アクセサリー、お菓子の4店舗は日除けのテントの中でゆったりと接客していた。従来のイベントの際より広いスペースがある為、沢山の品物が並べられ、見る方もついつい手が伸びてしまう。製作する作家さんの顔が見える販売で、話も弾んでいた。
近隣は車の行き来も少ない格好の散歩コース。犬と一緒のお客さんは「毎週きている。いつもちがうお店で楽しい」と話した。スタッフからも「いつもありがとうございます」と挨拶があった。
採りたての野菜を積んで、農家の皆さんが出店していた。期間中、4つの個人と団体で、複数回出店があったが、野菜の直売はいつも大人気だ。「散歩の途中だから重いものはね〜」と言いながら、大きな白菜やキャベツを買って行く人、「近所だからカートを取ってくる」と品物を預ける人もいて、思わぬところで野菜が買えて満足そうだった。
ひばりテラス118は西東京市と東久留米市の公園に面している。11月13日には「ニシトウキョウ ヨミキカセトリオ」による読み聞かせのイベントが行われた。青空と軽やかな秋の空気の中で、親子で楽しむ姿が見られた。以前室内で行なわれた時には満員状態だったが、今回はゆったり。フェイスシールドをつけて臨んだ演者たちは「野外は初めてでしたが、これも良いスタイルかと思いました」と笑顔で語った。
にわジャムを支えるサポーター
駐車場で誘導棒を持って警備に当たっているのは、住民の大熊拓也さんと篠田貴志さん。ほとんどレギュラーでスタッフとして参加した。会場の設営、撤収も「力仕事は任せて」と受け持ち、マルシェの開催中は駐車場付近の安全を守っていた。
大熊さんは5年前に、篠田さんは1年前にこのエリアに引越してきた。マンションの管理組合の理事を務めたり、まちにわひばりが丘のイベントに参加したりするうちに、その活動の理解者、サポーターとなっていった。大熊さんは活動主体が住民に移行された新体制のもと理事に就任している。
談笑している二人に話を聞いた。
「楽しいから、やってるだけだよ。この前もマルシェに出店したお店を滝山まで訪ねていったんだ。行動や交流が広がって、どんどん地元を好きになるね」と美味しいものに目がない篠田さんが目を細める。
「篠田さんは、お客さんへのおすすめもうまいんだよ。足元が危ない女性に付き添いながらお菓子屋さんまでご案内してたよ」と大熊さんが褒める。「あの女性は同じマンションの人。顔見知りになるきっかけになったよ。こういう参加の仕方は地域に馴染むには一番だね」と篠田さんは話した。
大熊さんは「今年は特に、しばらく会っていなかった人にたくさん会えて嬉しかった。今回はスタッフ、出店者、お客さんの接点が増したように感じる。みんな協力的だったよ」と感想を述べてくれた。
二人の他にも、日替わりで「準備だけ」「片付けだけ」と手を貸してくれる住民がいた。自分が出店しない日に、ボランティアで参加するハンドメイドの作家もいた。手芸の道具を竹ぼうきに替えて公園の落ち葉を掃いたり、接客で身についているソフトな笑顔で検温の役目を担ったり、いつものにわジャムでは見られない光景が見られた。
2ヵ月にわたるイベントの現場統括として活躍した中村泰己さんに感想を聞いた。
「大きなトラブルなく、このイベントでの感染者の確認もなく終わることができてほっとしています。住民の皆さん、出店者の皆さん、まちにわ師(まちにわひばりが丘のボランティアチーム)のサポートがあって、やり遂げることができました」と重圧から解放されたという笑顔を見せた。「毎週来てくださるお客さんや犬と仲良くなることができたし、お客様同士も仲良くなられている様子をみて小さなイベントでも喜んでいただけたのではないかと感じます」と話した。
「朝は緊張から体調が悪くても、お昼ご飯に何を食べようかな、と考えると頑張れました」と自分も楽しんだようだった。
新しい日常の可能性
にわジャムは60を超える出店があり、3000人ほどが来場するイベントに育っていた。2020年1月には「にわジャム2020」の実行委員会が立ち上がり、5周年記念の盛大なイベントになることが予想されていたが、新型コロナウィルス感染症の拡大によって全ての企画が水泡と帰した。
小さな規模で、期間を長くして行うことについて、事務局では規模のあまりの違いを懸念する声もあった。誰もお客さんが来ないかもしれない。出店者の期待に応えられないかもしれない。そんな不安もあったが、感染症対策をしつつ、「小さな賑わい」をつくることに挑戦することにした。趣旨を理解し、70ほどの出店者が参加を表明し、ワークショップ、公演なども含め内容は充実した。
感染症の拡大傾向も悩ましかった。
毎回欠かさず行った出店者ミーティングでの対策の確認、感染者が増加してきた11月後半には一段踏み込んだガイドラインを出店者に周知した。検温や連絡先の登録に笑顔で協力してくれた来場者が多かったことに意を強くした。
出店者からは「ゆとりのあるスペースで丁寧に接客できた」「作家同士訪問し合うことができた」など小さなイベントだからこそできた事を評価する声も届いた。事務局では「やっぱり賑やかにやりたい」という思いの一方、「小さな規模でも積み重なり、新しいつながりが生まれる」という手ごたえが得られた。
キッチンカーで食べ物を買って公園で食べたり、持ち帰ったりというスタイルは、すっかりこの辺りの当たり前になってきた。
小さなマルシェが日常となって、さらに濃密なつながりが生まれる可能性を感じるイベントだった。
(渡邉篤子)(写真は筆者提供)
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