北多摩戦後クロニクル 第18回
1960年 ブリヂストンタイヤ東京工場が小平で操業開始  地域を成長させた企業群

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2023年5月2日

 1950年代半ばからの高度経済成長期、財政難に苦しむ自治体は自己財源の確保のため積極的に工場誘致に乗り出した。小平町(現小平市)の「ブリヂストンタイヤ東京工場」建設は、それを象徴する事例だった。小平町は元陸軍兵器補給廠跡を中心とする農地への工場誘致を図り、ブリヂストンは最大のマーケットである東京に国内2番目となる新工場の建設を模索していた。用地の買収交渉は難航したが、1960(昭和35)年、小川東町の57万3525平方メートル(東京ドーム12個分)に建設した工場で操業が始まり、62年には研究開発の拠点となる技術センターが完成した。

 

ブリヂストン

ブリヂストンの事業拠点がある小平市小川東町

 

若年労働者の流入

 

 折からのモータリゼーションの進展に乗って、トラックやバス、乗用車用のタイヤ生産量は日産1500本から62年には1万本、70年には2万5000本へと急伸した。生産を支えたのは当初、ブリヂストン創業の地である福岡県・久留米工場からの転勤者約800人だった。生産拡大に伴って地元のほか東北や九州など地方からも大量の養成工を採用して、70年には従業員数約4100人になり、うち9割以上が男性だった。

 

ブリヂストンタイヤ東京工場

第2期工事前のブリヂストンタイヤ東京工場(1960年、ブリヂストン提供)

 

 この時期の小平には、ブリヂストン以外にも日立製作所武蔵工場や昭和電子小金井工場など大きな工場や製造事業所が次々に進出した。そのため小平の人口は1955年の約29000人から60年は約53000人、70年には約137000人と急増した。

 その多くは10代後半から20代前半の男性、すなわち工場や事業所で働く若年労働者だった。高度成長期の小平の成長と変化に大工場・事業所の進出は大きな役割を果たしたといえる。

 新工場のレイアウトは創業者の石橋正二郎社長(1889〜1976年)自らが構想した。用地の中央に東西に伸びる道路を1本引き、北側を生産工場に、南半分を研究センターや社宅などの厚生施設に当てた。

 社宅や病院、スポーツ施設、児童会館など福利施設に加え、企業内教育や社内レクリエーションなどソフト面にも配慮した。「従業員の家族が不自由なく生活し、主が安心して働けるようにするためには、福利厚生施設を完備する必要がある」という石橋社長の考え方に基づくサポートだ。さらに近隣小学校への出前授業や体育館・グランドの開放、納涼祭開催などを通じて積極的に地域との交流を図っていった。

 

ブリヂストン

納涼祭で地域との交流を図る(ブリヂストン提供)

 

技術開発の拠点として再開発

 

 現在、ブリヂストンは東京工場を航空機用ラジアルタイヤ専用の工場とし、さらに技術開発の拠点である小平地区を再開発して複合エリア「イノベーションパーク」を整備する計画を進めている。

 

イノベーションギャラリー

イノベーションギャラリーではさまざまなタイヤに触れることができる

 

 2020年11月、その最初の施設「ブリヂストンイノベーションギャラリー」がオープンした。世界最大手のタイヤメーカーとなったブリヂストンの歴史と事業活動を紹介した企業博物館だ。創業からの歩み、ゴムとタイヤの性質や役割、モータースポーツやゴルフボール、人工筋肉、義足、免震ゴムなどさまざまな分野における取り組みを実物や映像やパネルで紹介している。

 

F1マシン

F1マシンの開発にも寄与

 

 2022年4月にはイノベーション促進のため社内外との交流を図る「ビー・イノベーション」と試作タイヤのテストコース「ビー モビリティ」の2施設を開設し、イノベーションパークの本格稼働を開始した。

 自動車業界は電気自動車の普及や自動運転化など大変革期を迎えている。ブリヂストンは「イノベーションを通じた新たな価値創造、持続可能な社会の実現に向けた変革を実現する拠点として小平地区の再構築を図りたい」としている。
(片岡義博)

 

【参考資料】
・創立五十周年社史編纂委員会『ブリヂストンタイヤ五十年史』
・鈴木理彦「高度成長期、ブリヂストンタイヤ東京工場に集まった労働者たち」(『小平の歴史を拓く-市史研究』第6号)
・ブリヂストン物語(ブリヂストンHP
・イノベーションで新たな価値を創造する「Bridgestone Innovation Park」を開設(ブリヂストンHP

 

片岡義博
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