まちおもい帖 第51回 地域に開かれた「かかりつけ病院」を目指す武蔵野徳洲会病院

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2023年7月6日

 

1.地域住民3000人が楽しんだ「むさとくフェスティバル」

 

 6月4日(日)に、武蔵野徳洲会病院が開催した第3回「むさとくフェスティバル」に行ってきた。チラシなどでお祭りが行われるとは、知っていたものの、こんなに大掛かりなお祭りとは知らなかった。2018年、2019年と開催され、コロナ禍で4年振りの開催とのこと。第1回から、かなりの人が集まっていたようだが、今回も、晴天に恵まれ、3000人くらいは来場したと推定される。

 私は、ちょうど昼頃に行ったのだが、ピロティに「ふわふわ」と呼ばれるトランポリンが体験できる大きな犬の施設が置かれており、家族連れが楽しそうに順番を待っていた。

 

ふわふわ

「ふわふわ」の順番を待つ親子連れ

 

 病院の入口から中に入ると、いつもは、客待ちの所に人が一杯。なんだろうと覗くと、ちょうどマジックショーをやっていたので、思わず私も見てしまった。午前中には、ここで開会式や田無第四中の吹奏楽部の演奏、医療講演などがあったようだ。

 

マジックショー

マジックショーに見入る人たち

 

 徳洲会病院には、幾度か訪問しているものの、こんなに広い裏庭があるとは知らなかった。裏庭には、祭りに欠かせない、焼きそば、わたあめ、フランクフルトソーセージ、かき氷などの飲食関係の出店のほか、ヨーヨーやスーパーボールすくいなどがあり、大きな休憩コーナーが設けられていた。

 

2.病院ならではの体験コーナーに人気

 

 売店前の休憩所では、夏本番に向け、「作ってみよう虫よけスプレー」のコーナーが賑わっていた。廊下や病室前にも、びっしり体験コーナーがあり、「松葉杖体験コーナー・バランス検査コーナー」「やってみよう!3分で心配蘇生」「めざせ!栄養マスター!(いつものごはんと病院食の違いを考えてみよう!)」「体験型 臨床検査技師のお仕事(からだの中の血液や細菌を顕微鏡で見てみよう!)」といった子供たちが病院の仕事に興味を深めることができる面白い企画がたくさんあった。

 なかでも、お医者さんになって「手術を一緒にやってみよう!」というコーナーは、病院ならではの体験ができるので、一段と人だかりが多かった。ちゃんと、手術着に着替えてお医者さんの真似事をする。写真は、模型の人形に挿管しているところだ。このコーナーは、整形外科、麻酔科の医師、手術の看護師らが一緒になって企画を練ったそうだ。

 

手術の模擬体験

「手術を一緒にやってみよう!」を体験する子供たち(武蔵野徳洲会病院・地域医療連携室提供)

 

 こんな大規模なお祭りを、医者、看護師、事務員及び系列の介護施設職員と、ほぼ職員だけで賄ったというから驚きだ。もちろん、この機会にちょっとした相談ごとに乗れるよう、「医療と福祉の情報・相談コーナー」が設けられており、ここには、向台町と新町の地域包括支援センター、系列の武蔵野徳洲苑の方々が詰めていた。

 

3.地域に開かれた病院づくり

 

 徳洲会病院は、創始者の徳田虎雄氏の幼少期の強烈な経験から誕生した。鹿児島県徳之島で弟が急病になった時に、真っ暗な田舎道を夜通しいくつもの集落を走り回ったものの、どの医者にも診療を断られ、弟は、朝には白目をむいたまま亡くなってしまった。この経験から一念発起して医者となり、「いつでも、どこでも、誰でも(金持ちでも貧乏人でも、偉い人でも偉くない人でも)最善の医療を受けられる病院」の設立を決意した。

 徳洲会グループは、現在では、日本全国に、病院75、クリニック・診療所34、介護老人保険施設41、訪問看護ステーション57、介護・福祉・施設事業所ほか179を誇る医療・福祉関係の大グループに成長している。今も、「生命(いのち)だけは平等だ」を理念に掲げている。

 グループのHPにも、武蔵野徳洲会病院のHPにも、理念を実行するための方法として、「年中無休・24 時間オープン」を打ち出している。徳田氏自身は、若いころ病院に連日寝泊まりして理念を自ら体現していたようだ。しかし今日的には、それを実現するのはなかなか難しい。今回取り上げた武蔵野徳洲会病院でも、日曜、祭日の外来は、休診としている。

 しかしながら、救急医療には力を入れており、武蔵野徳洲会病院では、「断らない救急」を目標にしている。そのために、2次救急病院(注1)の多くは、各診療科の医師が救急業務を兼務で担当しているが、武蔵野徳洲会病院では、4名のベテラン救急科専門医が勤務している。救急科専門医は急性疾患(緊急で対応が必要な疾患や外傷)では診療科にかかわらず診療を行うことができ、必要な場合は病院の内外にかかわらず、適切な専門の診療科に引き継ぐことができるという。母を救急車に乗せてから1時間も受け入れ先が決まらなかった経験を持つ私からしても、これは、頼もしい限りだ。

(注1)1次救急:軽症患者に対応する一般の外来診療
    2次救急:入院・手術が必要な重症患者を24時間体制で受け入れ
    3次救急:最もハイレベルな救命救急医療に対応

 

 武蔵野徳洲会病院は、石川島播磨重工業の工場跡地に、ヴィーガーデン他の居住地とコジマ/サミットの商業施設とともに、病院や介護施設を作るという計画のなかで名乗りを上げた。西武新宿線の南側に始めて大きな病院ができることもあって、市民からの呼びかけもあり、当初から地域住民が気楽に立ち寄り、地域住民とともに病院をより良くしていくことを目指してきた。

 コロナ禍前には、定期的にロビーコンサートや「おおぞらカフェ(注2)」も開催してきた。おおぞらカフェでは、民生委員、社協職員、包括支援センター職員などがスタッフとなっており、一般の方がカフェに来ておしゃべりしながら、ちょっとした医療や介護の相談を気楽にできる仕組みになっており、そうした地域住民や患者のニーズに寄り添うことで、サービス向上を目指してきた。

(注2)石川島播磨重工業が飛行機やジェットエンジンを作っていることから、その跡地に出来た公園の名前が「おおぞら公園」となっていることに由来する。

 

 また、最近では、他の病院でも実施しているが、医師による講演会も、西東京市のコール田無や小金井駅前の宮地楽器ホールで毎月行われている。講演会では、医療についての講演に加え、相談会も実施している。

 

4.「かかりつけ病院」を商標登録

 

 一口に医療施設といっても多様である。大きく分けると、「病院」と「診療所・クリニック」があり、さらに病院には、①一般病院、②特定機能病院、③地域医療支援病院がある。②特定機能病院とは、高度の医療を提供する病院で、東京都の場合には、国立病院や大学病院がこれにあたる。③地域医療支援病院というのは、地域医療を担う「かかりつけ医や歯科医」を支援する病院で、西東京市を含む北多摩北部には、表のように4つの病院が指定されている。武蔵野徳洲会病院は、この分類では、①一般病院に当たる。

 

医療施設の種類

表1 医療施設の種類
(出所)厚生労働省医療施設の種類東京都における特定機能病院東京都の地域医療支援病院一覧ほかより、筆者作成

 

 2015年5月に、医療保険制度改革法が成立し、医療は、大病院(特定機能病院や許可病床が400床以上ある地域医療支援病院)と地域医療を担う「かかりつけ医」との2段構えになった。それまで、軽い症状の患者が大病院に大勢かかることにより、大病院でしか対応できない緊急な症状の人や高度医療を必要とする人が適切な治療を受けられないという問題が生じていた。このため、患者は、まず地域の診療所やクリニック(かかりつけ医)で受診し、高度な治療が必要とされる場合には、紹介状を書いてもらって大病院に行くこととなった。この制度を実行力のあるものにするため、紹介状なしで大病院を受診すると、特別の料金(初診時選定療養費)が徴収される。

 今回、原稿を書くにあたって、知人に徳洲会病院をどう思うかと聞いたところ、「敷居が高い」と思っている方がおられた。つまり、風邪を引いた、お腹が痛いなどの症状になった時に、すぐに診療に行く「かかりつけ医」ではなく、そこから紹介状を書いてもらってから出かける「大病院」との認識だ。

 武蔵野徳洲会病院では、一般の方が「病院」というと、先の分類の「大病院」と認識してしまい「敷居の高さ」を感じてしまうことを危惧しており、「病院」という名前ではあるが、具合が悪くなったら、最初に来てよい病院であることをアピールしたいと思っている。したがって、「初診時選定療養費」は、取っていない。

 今回、同病院に取材して初めて知ったのだが、当病院は、2016年5月20付けで、「かかりつけ病院」というネーミングをわざわざ、商標登録しているのだ。

 

「かかりつけ病院」の商標登録証

「かかりつけ病院」の商標登録証

 

5.新参者ゆえの営業努力

 

 西東京市には、保谷厚生病院、田無病院、佐々総合病院、西東京市中央総合病院など、歴史が古く市民に馴染みのある病院が複数ある。もちろん、かかりつけ医として昔から機能している多くの診療所やクリニックもたくさんある。しかも、周辺には、公立昭和病院、武蔵野赤十字病院、杏林大学医学部付属病院など、特定機能病院や地域医療支援病院もある。いわば、病院激戦区だ。

 武蔵野徳洲会病院は、2015年開設の新しい病院であり、工業跡地に新興住宅街とともに出来たとはいえ、新規に顧客を獲得するには、それなりの努力が必要であったに違いない。それが「かかりつけ病院」の商標登録や「むさとくフェスティバル」の開催に繋がっているのだろう。徳洲会グループには、たくさんの病院があるが、これほど地域に開かれている病院は、稀である。

 

西東京市周辺の病院

西東京市周辺の病院

表2 西東京市周辺の病院概要
(出所)各病院のHPから筆者作成

 

 これから、一層の高齢化社会を迎え、医療と介護の連携も重要だ。武蔵野徳洲会病院のHPには、「『生命だけは平等だ』の理念のもと、健康を増進し、予防を徹底し、適切な治療を提供する地域の『かかりつけ病院』を目指します。また、地域の医療機関と連携を図り、患者様に『途切れのないシームレスな医療』をトータルにチームで提供します。」と書かれている。

 地域住民にとっては、最新鋭の機器が揃い、多くの診療科を持ち、「断らない救急」を標榜し、地域の医療機関や介護施設等々とも連携を進める病院ができてくれたことは、まことに有難い。子どもたちにとっても、「むさとくフェスティバル」で医療に触れることにより、将来の職業として、医療や理系の仕事を選択するようになるかもしれない。コロナ禍がまだ心配されるため、以前のようなカフェやロビーコンサートは、まだ見送られているが、地域とともに同病院がより使い勝手の良い病院になってくれることを期待したい。
(写真や図表は、明記している場合を除いて筆者の撮影・作成)

 

 

05FBこのみ【筆者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年、東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。退職、母の介護を経て、まちづくりに関わる。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2019年より、多世代交流・地域の居場所「どんぐり」オーナー。2020年にフェイスブック仲間と「西東京市カルタ」完成。2020年より下宿コミュニティセンター管理運営協議会代表。2022年度より下宿自治会会長。

 

 

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