北多摩戦後クロニクル 第40回
1998年 エフエム西東京が開局 地域のつながりつくる拠点

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2023年10月10日

 1998(平成10)年1月、コミュニティーラジオ局「エフエム西東京」(FM西東京)が田無市(現西東京市)で開局した。四半世紀の間、ボランティア・スタッフたちに支えられながら災害・防災情報をはじめ西東京市を中心とする地元情報を発信するとともに、地域の人と人をつなげる役割を果たしてきた。2018年には「FMひがしくるめ」(現TOKYO854 くるめラ)が開局し、北多摩エリアの情報ネットワークは一気に広がった。

 

エフエム西東京

エフエム西東京Aスタジオから「藤原浩のやすらぎの小径」を生放送

 

人と人をつなぐハブ

 

 市町村単位で地元に密着した情報を発信するコミュニティー放送は地域の活性化を目的に制度化され、1992年に最初の「FMいるか」が北海道函館市で誕生した。95年の阪神・淡路大震災をきっかけに災害時、住民が求めるきめ細かな情報をいち早く伝えるメディアとして注目され、2022年12月現在、339局までその数を伸ばしてきた。

 FM西東京(周波数84.2MHz)は90年代後半の開局ラッシュのさなか、高さ195メートルの電波塔「田無タワー」(スカイタワー西東京)を当時グループ傘下に収めていた株式会社田無ファミリーランドが立ち上げた。都内では武蔵野市、葛飾区、江戸川区に次ぐ4番目の開局だった。

 

エフエム西東京とスカイタワー

エフエム西東京と送信所があるスカイタワー西東京(西東京市芝久保町)

 

 当初の大きな特徴はボランティアスタッフがその運営を支えてきた点だった。数人の社員に比して、その数は開局時の約40人から一時100人近くにまで増え、番組制作、街角レポート、ミキサーなどあらゆる分野で活躍した。

 開局の準備段階から退職する2016年まで運営に携わり代表取締役も務めた有賀達郎さんは「番組パーソナリティーをボランティアで埋めて、この街がいかにいい街か、面白い街かを伝えてもらう。ほとんど未経験者だったけれど不思議と回っていった」と振り返る。現在、その数は大幅に縮小したものの、市民ボランティアが日頃から見聞きした情報は番組作りに生かされた。「次から次に面白い人と出会える。コミュニティー放送は情報発信だけではなく、そうした人と人をつなぐハブ、接着剤になっている」

 その“人脈”は緊急時や災害時に大きな力を発揮する。例えば「近所で火災が起きた」という情報が住民から局に入った時、相手が顔見知りで信頼できる人ならば公式発表を待たずにオンエアできる。こちらから連絡して近くの様子を教えてもらうことも可能だ。「市民と一緒に番組を作っていると、こういうことができる。これは信頼関係で結ばれた社会のあり方に通じるものだと思う」と有賀さんは話す。

 

サイン色紙

Aスタジオ前室の壁を埋め尽くすゲスト出演者のサイン色紙

 

災害・防災情報の発信拠点

 

 重きを置いているのは災害・防災情報だ。市役所・警察署・消防署との連携、聴取者参加型の防災訓練中継。2011年3月の東日本大震災の発生時には非常態勢で臨んだ。

 プロデューサーの飯島千ひろさんの報告によると、情報の収集・発信と同時に中継レポーターが市内の被害状況を生放送で伝え、放送内容をツイッターで流した。インターネットでも聴取可能だったため、交通手段や連絡手段が絶たれた中で「ネットを通じて自宅のある田無は大丈夫だと知り安心した」「なじみあるパーソナリティーの声が発する情報は心強かった」という声が寄せられた。

 翌日からの2週間は特別編成に切り替えて電車の運行状況、各店舗の営業状況、計画停電の情報などを報じ、被災地に送るラジオと乾電池の寄付募集、現地支援者による活動報告などの支援活動を展開した。その後も3月11日には特別番組やイベントを開催。2022年11月には被災者支援を続けてきた市民団体「生活企画ジェフリー」の企画で西東京市に住む被災者が市民や市職員とともに近況を語る全4回の番組を放送した。

 選挙報道にも力を入れた。市長選立候補予定者の討論会、開票速報、初当選した新人議員へのインタビュー。市議選の政見放送は法的に認められていないため、2022年12月には市議選立候補者の政見を収録した「政見動画」をユーチューブで配信する全国初の試みに挑んで注目を集めた。「自分たちもやってみたい」という声が各所から相次ぎ、今年4月の武蔵野市、三鷹市、神奈川県三浦市の市議選、山形県議選(新庄市区)で同様の取り組みがなされ、政策本位の政治を目指す取り組みに与えられる第18回マニフェスト大賞の優秀賞にも選ばれた。

 制作室の青木崇室長は「FM西東京の役割は地域に資する情報を市民に提供すること。ラジオに限定せず、さまざまな媒体で情報を発信したい」と話す。地元メディアとの連携やイベント主催、情報誌制作。2020年4月には西武新宿線田無駅北口にガラス張りの公開スタジオを開設した。公開放送する番組には開局時から毎週土曜の午後、2時間の生放送を続ける「WEEKLY MUSIC TOP 20」もある。

 

丸山浩一市長(当時)

2020年4月にオープンした「まちテナスタジオ」で話す丸山浩一・西東京市長(右)

 

 パソコンやスマホで誰もがいつでも聴取可能になったラジオは新時代を迎えた。無線に特化した情報番組「QRL」のようなマニアックな番組が人気だという。「今後も放送局としての公共性は担保しながらニッチな層も狙っていく」と青木さんは言う。

 開局から25年。FM西東京のネットワークが広がり密にもなってきた。「普段聞かないラジオ局は災害時にも聞かないはず。常に聴いてもらえる番組を作ってファンを増やしていきたい。それはスポンサードしてもらえる価値を持つ番組作りにもつながると思う」

 

東久留米・小平・清瀬の連携

 

 FM西東京に続き、小平市と東久留米市でもコミュニティーFM局開設の動きがあったが、課題は資金繰りだ。小平で動きが途絶える一方、東久留米ではFM西東京開設時の社員だった高橋靖さんが私財を投じて運営会社「クルメディア」を設立し、2018年に「FMひがしくるめ」(周波数85.4MHz)を開局した。番組の自主制作と生放送、聴取者とスポンサーの会員組織、マガジン広告、ボランティア導入などで経営の安定化を図った。

 モットーは「街を元気に」「災害に強い街に」。21年7月、電波出力を2Wから10Wに強化して放送エリアを東久留米、小平、清瀬の3市に拡大し、局名も「TOKYO854 くるめラ」に変えた。毎月第2金曜放送の「ほくほくRadio」は小平と清瀬の市職員有志が企画・制作し、毎回ゲストを迎えて地元情報を発信している。

 

ほくほくRadio

「ほくほくRadio」放送中の「TOKYO854 くるめラ」スタジオ(東久留米市東本町)

 

 出演者も情報も3市に特化する「地元至上主義」を掲げる。「首都圏のベットタウンであるこの地域には魅力的な人がいっぱいいるのに住民はほとんど知らない。それを逆手にとって地元の逸材や価値ある情報を紹介して深堀りする。番組の中身の濃さには自信がある」と高橋さんは話す。

 さらに「街に出て街の人に出てもらおう」とパーソナリティーと最小限の機材ごと街に繰り出して中継するサテライトスタジオを次々に設置した。この独自のスタイルがくるめラの理念を体現しているようだ。

 住民が地元意識を持ちにくい北多摩地区で、コミュニティー放送は人と人がつながり、地域を再発見する機会を提供している。自然災害が相次ぐ時代、急速な人口減少で地域の結びつきが薄まりゆく社会で、その役割はいっそう重要になっている。
(片岡義博)

 

【主な参考資料】
・842PRESS No12「エフエム西東京25周年」(エフエム西東京)
・山田晴通「FM西東京にみるコミュニティ放送局の存立基盤」(東京経済大学人文自然科学論集第110号
・特定非営利活動法人 生活企画ジェフリー編集・発行「3・11から10年-東北被災者と西東京市の人びとが紡いだ日々-」

 

片岡義博
(Visited 315 times, 1 visits today)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA