書評 花岡蔚著『新版 自衛隊も米軍も、日本にはいらない!』
日本経済は今、貧困と格差の生活危機が続いているが、岸田政権の下でさらに平和への危機も付け加わっている。非武装、不戦の憲法に反する軍事大国化と他国との軍事同盟の強化が急速に進められているのだ。この動きは安倍政権以来のものだが、その後のロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、欧米諸国のロシア・中国・朝鮮への封じ込め政策が強められ、日本もそれに積極的に参加している。自民公明政権は、これを機に軍事大国化と憲法改定を一気に進めようとしているのだ。
そんな状況で迎えた今年の8月15日、大きな新聞広告で、世の中やマスコミの空気とは真逆のこの本のタイトルが目を引いた。考えてみれば、憲法は戦争も軍隊も戦力も否定しているのだから、自衛隊も米軍も不要のはずなのだが、今の日本では安全保障政策として、多くの人は自衛隊と米軍の存在は当然の前提と考えられているだろう。それを強化拡大する、というのが岸田政権だ。しかしそれは間違いなのだ、という本書の主張を、改めて聞いてみる必要があるのではないか。勿論「自衛隊・米軍なしで大丈夫なのか」ということが中心である。
主張の基本は「非武装中立」論である。武力による抑止政策は平和を保証するものではなく、むしろ戦争を誘発する危険がある。絶対悪である戦争を根絶するには、非武装以外にない、という考えによる安全保障論だ。それ自体は新しい発想ではない。1980年に社会党の石橋政嗣氏がこの書名の本を出している。社会党の基本政策だった。花岡氏も、石橋案とほぼ同じだと認めているが、違うのは、石橋案が実現目標を具体化していないのに対して、花岡案はすぐに実現する対案とスケジュールまで提唱していることだ。理由は、自衛隊容認の憲法改定の動きが格段に強まっているためだと言う。
自衛隊と米軍無用の、安全保障政策の具体案は次のようになる。
1:防衛省を防災平和省に改称し、自衛隊を廃止して、隊員を全員、防災と国境警備を一元管理する新官庁防災平和省に移籍する。
2:実働部隊として『災害救助即応隊』をつくる。その傘下に非軍事の国防監視組織として陸上・海上・航空の各警備隊を持つ。
3:日米安保条約を廃棄してすべての米軍基地を日本から撤去し、米軍には母国に帰還してもらう。
分かりやすい内容だが、ひとつだけ「国境警備」は解説が必要だろう。国境警備は、丸腰ではなく、軽武装を認めているが、戦力ではない。
戦争と平和については、原因や結果、是非善悪などにさまざまな議論があるが、ここで提案されているのは「戦争は絶対悪」という考えを前提とした恒久平和のための政策と言えよう。戦争の悲惨を身に染みて体験し、非武装・不戦の憲法を持つ日本人には、決して非現実的な提案ではないだろう。「しかしそれで国の安全は守れるのか」という当然の疑問に対して、著者はさまざまな想定問答で「大丈夫」と答えている。例えばウクライナについては「もしウクライナが非武装中立だったら、戦争はなかっただろう」と説明している。
大まかにいえば、国民の過半数が賛成すれば非武装中立は現実化できる。国民の間に9条改憲への反対論はまだ根強いが、この提案はそれ以上に積極的な平和政策として、非武装中立の狼煙を挙げたことになるだろう。政権野党の政策には、9条改憲反対論はいくつかあるが、自衛隊廃止と米軍撤退を求めるものは見当たらないようだ。改めてこの提案に注目すべきではないか。(2023.8.31)
著者:花岡蔚(はなおか・しげる)1943年生まれ。東大法学部卒、米カリフォルニア大経営学修士。1966年日本勧業銀行入行。2003年「自衛隊イラク派兵反対運動」に参加。コスタリカに学ぶ会会員、「米軍基地をなくす草の根運動」などで全国を講演行脚中。
【書籍情報】
書名 新版 自衛隊も米軍も、日本にはいらない!
著者 花岡 蔚
出版社 花伝社
定価 1,650円(税込)
出版年 2023年5月
ISBN 9784763420619
判型・ページ数 四六版・240ページ
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