北多摩戦後クロニクル 第50回(最終回)
2022年 多摩モノレール延伸計画発表 東西を貫く交通インフラ完成へ

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2023年12月19日

 2022年11月、多摩都市モノレールの上北台(東大和市)から西多摩郡瑞穂町・箱根ケ崎まで約7キロの延伸計画が発表された。新青梅街道沿いに高架軌道を設置し、7つの駅を設ける。旧北多摩郡内で唯一鉄道を持たなかった武蔵村山市地域にも5つの駅ができるという意義に加えて、戦後を通じての課題だった北多摩を東西に貫く交通インフラ整備の1つの到達点という意味でも画期的な出来事だ。

 

多摩都市モノレール

玉川上水駅(東大和市)付近を走る多摩都市モノレール(2023年9月)

 

遅れた北多摩の道路整備

 

 東京・多摩地域はもともと23区に比べて交通インフラの整備が遅れていたが、特に道路は戦後になってからも旧態依然のままの状態が続いた。都心から西に延びる幹線道路は南の甲州街道と北の青梅街道が基本で、拡幅や舗装などの整備も長く手が付けられなかった。

 甲州街道は1964(昭和39)年の東京オリンピックの際マラソンコースとなったこともあって改修が進み、それに沿った首都高速道路4号線、中央自動車道の建設といった形で近代化された。

 しかし、国鉄(後にJR)中央線を挟んだ北側の北多摩郡地域では貧弱な道路事情が続いた。江戸時代から甲州街道の裏街道となっていた青梅街道は急速で無秩序な市街地化、住宅地化が進んだ影響もあって拡幅もままならず、1960年代になっても未舗装の道路をバスやトラックが土ぼこりを舞い上げながら住宅や店舗すれすれに走った。交通量が爆発的に増えるに伴い、渋滞や事故もひどくなり、脇道にも車があふれた。

 青梅街道のバイパスとしての新青梅街道建設の必要性は認識されており、終戦直後の復興計画でも打ち出されていた。

 

「疑似高速道」としての新青梅街道

 

 新青梅街道は新宿区西落合1丁目から瑞穂町箱根ケ崎に至る約49キロの都道で、新宿、中野、杉並、練馬、西東京、東久留米、小平、東村山、東大和、武蔵村山、瑞穂町の4区6市1町を通過する。

 

多摩都市モノレール

道路工事中の新青梅街道 1960年ごろ(西東京市図書館所蔵)

 

 1958(昭和33)年の着工以来工事が進められ67年、東村山市までが開通した。さらに71年、瑞穂町までが全通した。幅員18メートルで4車線、歩道を分離し、これにより都心との自動車によるアクセスは飛躍的に改善した。

 筆者は小学生から高校生までに当たる60年代を保谷市(現西東京市)で過ごした。ちょうど建設中だった新青梅街道は格好の遊び場所だった。我が家の周辺ではアスファルト舗装自体が珍しく、作業が行われていない間の工事現場に入り込んだ子供たちがローラースケートの練習や自転車での競争に興じていた。周囲は畑と雑木林が広がる昔ながらの風景だった。

 新青梅街道が開通すると沿道の風景は一変した。モータリゼーション、大量消費時代の到来を受けて畑は次々に買収され、広い駐車場を備えた自動車販売店、大型家具店、量販店、ファミリーレストランなどが建ち並ぶようになった。

 

多摩都市モノレール

小平市大沼町を走る新青梅街道、1983年撮影(小平市立図書館所蔵)

 

 新青梅街道は西東京市・北原交差点から西はそれまでの2車線道路から見違えるような4車線道路になって、車は一気にスピードを上げる。一方、南側に並行する青梅街道は4車線に拡幅されているが、同市田無町1丁目交差点から西は狭く曲がりくねった旧道の面影を残している区間が多く、とても車でスムーズには走れない。田無町1丁目と北原交差点間の約500メートルは所沢街道の一部を拡幅して新旧青梅街道をつなぐ工夫をしているため、東から青梅街道を走ってくるとそのまま4車線のまま新青梅に入ってしまう感じだ。

 北原交差点以西の新青梅はまさに旧青梅のバイパスとして機能し、北多摩を貫く唯一の疑似高速道、疑似自動車専用道とも言えるだろう。それでも交差する主要道路との立体化はほとんど進まず、朝夕のラッシュ時には渋滞がなかなか解消されていない。

 東村山市内では、西武新宿線と空堀川をまたぐ栄町陸橋が難工事の末に67年11月完成した。しかし開通直後に欄干への衝突事故が発生、線路に転落する車が出ないかといった懸念も浮上した。さらに沿線での住宅地化が進むにつれて歩行者の安全確保策が急務となるなど課題が次々に生まれ、改良が重ねられた。

 

多摩都市モノレール

難工事だった栄町陸橋(東村山市)

 

悲願だった多摩モノレール延伸と「新青梅完成」

 

 多摩都市モノレールは東京・多摩地域を南北に貫く公共交通インフラとして1998(平成10)年開業、現在は多摩市・多摩センター駅から立川市のJR立川駅を経て東大和市・上北台駅までの約16キロで営業されている。2023年2月に累計利用者数が10億人を突破し、営業黒字経営を維持している。

 東京都は2022年11月、上北台から瑞穂町のJR箱根ケ崎駅付近まで、新青梅街道沿いに西へ7キロ延伸する計画を明らかにした。住民への説明会によると、東大和市と武蔵村山市にまたがる付近に1駅、武蔵村山市内に4駅、瑞穂町に2駅の合計7駅を設置する予定という。これに沿った新青梅街道の5・1キロ区間(東大和市、武蔵村山市)では道路幅を18メートルから30メートルに拡幅する工事が進められている。総事業費は約1030億円。

 

多摩都市モノレール

モノレール延伸後の駅予定位置図(東京都都市整備局ホームページより)

 

 東大和市と瑞穂町の間の公共交通機関と言えば、これまで主に狭く曲がりくねった旧青梅街道沿いに走るバスに限られていた。新青梅街道沿いには渋滞を恐れてバス路線は設けられず、マイカー客を目当てにした大型店舗などは並ぶものの、市街地のにぎわいは生まれなかった。

 2010年1月に地元から東京都に要望書が提出され、人口7万人余りの武蔵村山市で3万人の署名が集まるなど悲願のモノレールが開通することにより、西武鉄道経由で新宿に出ることもでき、JR中央線などの利用もしやすくなる。鉄道の駅が一つもないといった「田舎イメージ」が大きく変わることが期待される。

 武蔵村山市ではこれまでにさまざまなイベントなどを通じて市民の意識高揚と、モノレールを通じた地域振興計画策定を進めてきた。延伸計画が発表されたことを受けて開かれた市民ワークショップでは、それぞれの駅周辺の特徴を生かした開発の夢と希望が語られた。通勤・通学をはじめ、生活の利便性が飛躍的に高まることで新住民を呼び込み、豊かな自然を含む地域の魅力をアピールして人々を迎え入れようとする狙いだ。

 

多摩都市モノレール

2022年11月、武蔵村山市の「村山ダエダラまつり」でのモノレール延伸キャンペーン風景
(武蔵村山市提供)

 

 しかし、具体的な建設、整備計画の策定はこれからの課題で、着工は早くて3年後、開業は2030年代半ばとされる。モノレールが多くの利用客を得て安定的に経営されることも課題だ。「モノレールを呼ぼう!市民の会」の澤田泉会長は「市民はこれまでさんざん待たされたという実感から、今後着実に事業計画が進むことを祈るような気持ちで見ている」と明かした。

 

「開通したら絶対乗ります」

 

 2023年11月18日、立川市の多摩都市モノレール車両基地で恒例の「多摩モノまつり」が開催された。高所作業車やフォークリフト、車両牽引の実演など普段は見ることのできない舞台裏の作業を間近で見学できるとあって、午前10時の開場前から大勢の家族連れが詰めかけた。

 一番人気は運転士が運転台の操作を説明してくれる「運転台見学」。車両後方の運転台では車掌の帽子を被って撮影できるため、早々と90分待ちの長蛇の列ができた。東大和市から来た子供連れの夫婦は小学生の息子が大の鉄道好きという。「初めて来たけれど、普段使っているモノレールを身近に感じることができた。人がいっぱいでびっくりです」

 あきる野市から来たという鉄道ファンの高校生は、買い込んだ鉄道グッズを手に「めっちゃ楽しい。延伸計画は知っています。いつできるか分からないけど、開通したら絶対乗ります」と声を弾ませた。

 

多摩都市モノレール

多摩モノまつりで人気の「運転台見学」。運転士が運転台操作の説明してくれる

(飯岡志郎)

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【主な参考資料】
・『東村山市史』
・『東久留米市史』
・こだいらデジタルアーカイブ(小平市立図書館)
・「多摩都市モノレール延伸(上北台~箱根ヶ崎)計画及び関連する都市計画道路」(東京都、多摩都市モノレール株式会社
・「モノレール沿線まちづくり構想」(東大和市、武蔵村山市、瑞穂町
・「モノレールを呼ぼう!市民の会 10年の軌跡」(冊子)

「北多摩戦後クロニクル」ご愛読ありがとうございました。全50回の企画を本年度中にも書籍化する計画が進んでいます。引き続きご支援よろしくお願いします。(編集部)

 

飯岡 志郎
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」への3件のフィードバック

  1. 1

    残念です。毎回楽しみに読んでいました。今回も次女が砂川七番駅の近くに住んでいるので、早速記事をシェアしました。お疲れ様でした。ありがとうございます。本になるとのこと、楽しみです。

  2. 亀倉 康悦
    2

    長い間 楽しませて頂き ありがとうございました。
    書籍化を楽しみにしています。

  3. カワジモトエ
    3

    長い間お疲れさまでした。知らなかったことも多かったので、この記事で周辺を身近に感じることができました。玉川上水駅周辺によく行っていたので、上北台駅から先は、線路の軌跡が空中に消えていく感じがしたものでした。

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