国蝶オオムラサキが里山に育つ 日の出町谷戸沢処分場の見学会
西東京市など多摩地域のごみはほとんどが最終的に西多摩郡日の出町に運ばれ処分されています。埋め立てが終わり自然の復元が進んでいる同町谷戸沢処分場一帯は、国蝶オオムラサキやホタルが舞い、モリアオガエルやフクロウの声も聞こえる里山となりました。見学会に参加した渡邉篤子さんの報告です。(編集部)(写真は、手のひらにオオムラサキ)
オオムラサキが手のひらに
日の出町役場前の送迎バス乗り場には、中高年の女性が数組。バスの中でも「カブトムシだったら男性が多いのかしらね」などと話が弾む。どうやら「蝶々」という言葉は、女性のハートを掴むアイテムのようだ。
役場から10分ほど緩やかな上りの道を進んだ。谷戸沢廃棄物広域処分場(西多摩郡日の出町大字平井字谷戸)に到着すると、既にオオムラサキ育成ケージは見学者でいっぱいだった。
ケージに入ると先ずカメラを構える人の姿が目についた。オオムラサキはそのレンズの先にいた。エノキの葉や幹にとまっていたり、ケージの天井に貼りついたりしていた。
「ここに蛹がいるよ」「今朝脱皮した成虫だよ」などと教えてくれる人もいて、次第にオオムラサキの姿を探せるようになった。
小学生の男の子が手のひらにオオムラサキをのせている。彼のやり方をまねて、ケージのネットを伝うオオムラサキの足先へ指をだすと、オオムラサキが乗り移った。大きく羽を広げ、美しい模様を見せてくれる。息をつめて見守った。
「見学会」でオオムラサキに触れることができるとは想像していなかった。飛び立つまでの数秒か数十秒の間、胸の鼓動が高鳴った。期待を大きく上回る体験だった。「オオムラサキに会いにきてね」とはこういうことだったか、と納得した。
谷戸沢処分場では、冬にエノキの根元から集めた越冬幼虫を、成虫になるまで育成ケージの中で育てている。エノキの葉を食べ大きくなった幼虫は葉の裏で蛹となる。よく見ると沢山の蛹がぶら下がっていた。
梅雨を迎える頃が羽化のピークとなり、その後放蝶される。里山のチョウであるオオムラサキは、谷戸沢処分場に里山の生育環境が再生されてきたことを教えてくれる大切なシンボルなのだ。
ホタルやカエル、サンショウウオも
約45ヘクタールの谷戸沢処分場のうち、22ヘクタールが埋立跡地。現在は、一部をグランドやサッカー場に利用し、ほかは広大な草原となっている。「自然観察ガイドツアー」が行なわれていたが、自由に散策もできる。受付で渡された「みどころガイド」を片手に約1時間、散策コースを歩いた。
草原には可愛らしい花が咲き、春から夏への移り変わる時季を感じた。他の見学者の姿もあるが、辺りは静か。途中の掲示板で、生息する虫や鳥の解説を読んだり、ポイントごとに待機しているスタッフに質問したり、マイペースで歩いた。
フクロウの巣箱があるという場所で、スタッフに話を聞いた。猛禽類のフクロウが生息していることは、森の王者がいるということ。姿を見ることはなかなか叶わないが、声は聞こえる、と楽しげに語った。
「湿地ビオトープ」のポイントでは「ヘイケボタル」「モリアオガエル」「カヤネズミ」「ナナフシ」などを観察するコーナーがあった。「可愛い!」の声があがっていたのが「トウキョウサンショウウオ」。日の出町指定の天然記念物である。処分場では産卵池を設置し、大切に守っているため産卵数は増加している。
ふと気がつくと、スタッフの手にはアオダイショウが巻き付いている。きれいなウロコをそっと触ってみると、滑らかで、ひんやりしている。「そこの茂みにいました」とことも無げに笑顔で話した。
散策コースを一周すると約1時間。草原の植物や生き物に心和むひとときだった。
大切に育てられる里山の自然
このイベントの主催者は日の出町と東京たま広域資源循環組合。循環組合は多摩地域の25市1町で構成されている。広報担当、武井豊さんに話を聞きながら谷戸沢記念館の2階展示室を見学した。
循環組合の前身、東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合が設立されたのが1980年。2006年に現在の「東京たま広域資源循環組合」に名称変更した。
海のない三多摩地域での廃棄物処分場設置には大変な苦慮があったと言う。広大な土地を有する日の出町の森林に谷戸沢処分場が設置され、1984年から1998年まで埋め立てが行われた。
谷戸沢処分場とその周辺の模型が展示室の中央に置かれていた。現在も周辺環境に影響を与えないように、浸出水を浄化処理する水処理施設などの維持管理エリア、メガソーラーエリア、地域の住民に貸し出されるサッカー場やグラウンドのほか、自然再生に取り組むエリアが示されていた。
周辺のスギやヒノキの森林からやってくる鳥や昆虫、風にのってやってくる植物の種子、動物の糞が運ぶ種子、それらが埋立地に命を与えていった。清流復活用貯水池を設置したことで水辺の環境が整い、多くの動植物が生息するようになった。模型のお陰で、里山の復活には周囲との繋がりが大きな役目を果たした事実が良く理解できた。
処分場開場以来、循環組合では生態モニタリング調査を実施している。毎年、約800種の昆虫類、約80種の鳥類が確認されている。植物は528種に上る。
森にはオオムラサキが、ススキの草原にはカヤネズミが、水辺にはトウキョウサンショウウオが、沢にはホタルがいる。それぞれの命が輝やいている。環境に気を配る、処分場跡地という特別な環境だからこそ、大切に守られ、育てられている里山の自然。10年後、20年後どうなっているのか、また訪れてみたい。
(渡邉篤子)(写真は筆者提供)
【関連リンク】
・国蝶オオムラサキの保全活動(東京たま広域資源循環組合)
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記事ありがとうございます。ただし、20年ぐらい前、日の出町ごみ最終処分場建設を反対した絵本作家の田島征三さんはじめ多くの人たちが今でも「日の出の森を支える会」として活動していますが、ここの山から流れ出る水には、放射性物質が含まれ、市民が計測しています。
>古谷さん
この記事には、廃棄物の埋め立ては1998年で終了と紹介されていますので、吉本新喜劇みたいなコメントをするのも、どーかと思いますよ。じじばばが、出しゃばって若い人に迷惑をかけるのは、やめませんか。