Print This Post Print This Post

地方自治と労使自治―その実態

By in コラム・百音風発 on 2015年3月19日

100winds_banner01
第2回

師岡武男 (評論家)
 
 

  地方自治という言葉は誰でも知っているだろうが、「労使自治」は一般にはあまり聞きなれない言葉かもしれない。昨年の春闘で安倍政権が賃金引き上げの勧奨を強めてから、労使関係者がよく使う言葉なのだ。「賃金の在り方は労使間の交渉で決めるべきもので、政府が介入すべきではない」というときに使われる。この主張は特に財界側が近年強調してきたが、労働側でも連合系の組合がよく使う。

 しかし安倍政権は、おかまいなしに今年の春闘では一層強く賃上げによる経済成長の「好循環」を提唱している。経済成長を目指すアベノミクスにとって、消費拡大のネックになっている賃金の低下傾向を転換することが、最大の課題と認識されているからだ。賃上げが政治の責任になっているのだ。

 賃上げが政治の責任だとされるのは、労働側にとっては結構なことだと思うのだが、反対だと言う理由は「上げるときは良いとしても、下げるために使われる恐れがある」ということのようだ。なるほど、インフレ時代の「所得政策」というものはそれだった。もっともらしいが、実情は違うだろう。

 現在の労使の力関係は、明らかに労働側は「非力」であり、そこでの労使自治とは、使用者専制の別名に他ならない。現に金属労協は、昨年の春闘時の見解表明で「労使自治の名の下に、経営者はミクロの経済環境のみに拘泥し、2000年代前半に実感なき景気回復に終わった」「労使が対等の立場で真摯な交渉を行うことこそが真の労使自治」と指摘している。そうと分かっているのに、連合系の組合には、賃金は労使自治でと言うのを建前とする傾向が強いのだ。虚勢を張っているとしか思えない。経営側には、もちろん今の労使自治が最善であろう。

 昨年の賃上げ相場は例年よりやや高かった(大企業平均2.19%、定昇込み)が、消費税引き上げによる物価上昇があったので、実質賃金は2014年間の全産業平均で2.5%もの大幅な低下だった。名目賃金(現金給与総額)の増加も、定昇込みの春闘相場とは違って、全産業平均は0.8%増に過ぎなかった。さて政府介入2年目の今年はどうなるか。3月18日までの連合系大企業の回答では、ほぼ昨年程度の賃上げになったが、実質賃金が昨年の低下分をどのくらい取り戻せるかは、今後の物価次第だ。

 以上は、労使自治の建前と実態が食い違う現状のことだが、もし本当の労使自治、つまり労使対等の自治があるとしたら、どうか。それこそが、「住民自治」と併せることで、民主主義社会の基本を実現することになるだろう。

 労使自治に相当する言葉としては昔から「産業民主主義」論があった。しかしこれも「階級対立」論に反対する労使協調論にすり替える動きに流されて、信頼を失った。一方の地方自治は、憲法第八章で確認されているが、実態は官僚支配に引きずられていた。「地方自治の本旨」を実行するために必要な「住民自治」の言葉自体が、まだ普及しているものではない。さてさて「自治」とは、言うは易く行うは難い言葉である。
 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

(Visited 913 times, 1 visits today)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA