下田将人さんと児玉由紀子さん

コール田無で「冬至の夜の収穫音楽会」 ジャズ・トリオとフルート奏者迎えて 西東京市の「向台農知園」が1年の恵みに感謝

投稿者: カテゴリー: 暮らし オン 2022年12月1日

 体験型農園として今年3月にオープンした西東京市の『向台農知園』が、年末の12月22日(木)、「冬至の夜の収穫音楽祭」を市内のコール田無多目的ホールで開催する。ゲストにジャズ・トリオとフルート奏者を迎え、農園の歩みをスライドなどで振り返る一夜。畑を耕してきた市民と農園主らが土の香りとおしゃれな音楽を掛け合わせ、ともに1年の恵みや結んだ縁に感謝するイベントだ。(写真は、農園主の下田将人さんと、農地利用者の兒玉由紀子さん。写真は筆者撮影)

 

 音楽祭は農園利用者の繋がりによって企画された。子どもも大人も一緒に楽しめるライブを考えていた農園主のアイデアを聞き、利用者が農園の風景にぴったりのゲストを思いついた。デビュー当時からの知己で、ジブリ映画の音楽をジャズにアレンジして演奏した立石一海トリオだ。夏に銀杏の木の下でフルートを演奏した百合野由香とのセッションも実現する。

 

音楽祭チラシ

音楽祭のチラシ(クリックで拡大)

 

 前日の冷たい雨が晴れ上がった11月中旬、青空のすがすがしい空気を胸いっぱいに吸い込み、向台農知園に取材に向かった。主幹道路から一本入っただけで静かな住宅地となり、遮るものがほとんどない。にこやかに出迎えてくれたのは、農園主の下田将人さんと農地利用者の兒玉由紀子さんの2人。3月にオープンしてから利用者だけでなく、家族や畑に来る子どもたちが楽しめるように工夫を重ねてきた。切り株アート・秘密ハウス・絵本コーナーなど、その一つひとつを紹介してもらいながら話を聞いた。

 

秘密ハウス

小学生が作った秘密ハウス(農知園提供)

 

雑木林を4年がかりで畑に

 

この農園の南側半分は竹林、北側は雑木林だった。以前は鬱蒼と茂った林に街灯もまばらで、日が暮れると真っ暗になった。バス停から降りて脇を通るのが怖いほどだったという。4年前、その林地で黙々を作業する下田さんを見かけ、兒玉さんは声をかけた。「ここは住宅地になっちゃうんですか?」「いえ、農園になります」「どれくらいかかるんですか?」「4年です」…。

 「切り売りの住宅地にはならない」とほっとした反面、4年という期間に、「本当に農園になるのだろうか」と一抹の不安が頭の中をよぎったという。

 4年後の2022年3月に下田さんの言葉通り、農園がオープンした。土地を開墾しながら、下田さんは市内の体験農園に2年余り通って勉強した。実家が江戸時代から続く代々の農家で、野菜を「作る」ことは体験として知っていたが、「教える」ことは違う。「農」をさらに深く知り、教えられるようになるための勉強、下田さん曰く「修行」に通った。

 

農園デビューは気軽に

 

 農園は現在、2m×10mを1区画として54区画を貸し出している。2023年2月からはさらに30区画を増やし、利用者を募集する。1区画には8畝(うね)あり、月に2回開催される講習会で何を植えてどう手入れするかを学ぶ。種・苗・肥料は用意され、1年間の利用料(2023年度5万円)に含まれる。

 

野菜

青々と育った野菜(筆者撮影)

 

 契約者は農作業に適した服装と小さなスコップやハサミなどを用意するだけで農園デビューが可能だ。日の出から日の入りまでいつでも作業できる。今年は野菜作りに初めて挑戦する人が利用者の約半数だが、キャベツ、ニンジン、ブロッコリー、ネギなどが青々と茂り、収穫を待っていた。

 

特製堆肥で無農薬栽培

 

 無農薬に徹し、農薬を散布したことはない。肥料は、刻んだヨモギと黒砂糖を一緒に漬け込んで発酵させた特製堆肥を使う。土中の微生物を活かす自家製肥料は、病害虫に強い野菜を育てる。ニンジンの葉の匂いを嗅ぐと、土と太陽と新鮮な葉の混ざった香りがした。日当たり抜群の農地で、土に触れているだけで元気がでそうだ。

 

講習会

講習会の様子(農知園提供)

 

 兒玉さんが絶賛するのは、下田さんの指導。講習会での座学に加え、実践における科学的な説明は、理科の授業を受けているようで「虫や肥料にも詳しくなった」という。農薬を使わないからこそ「害虫と益虫、また見分け方を知る」が今年の大きな学びだった。カマキリは野菜を食べず、虫しか食べない益虫と知った。カマキリをみつけたら農園に! という宿題も出たそうだ。子どもたちにとっても、机の上での勉強以上のことを、実際に土や虫に触れて学んでいる。

 畑の周辺にはコスモスにマリーゴールドが花を咲かせていた。景観のためと思っていたら別の理由があった。コスモスやマリーゴールドは益虫が好む花。益虫を呼び込む花を植えることで害虫の被害を減らす。

 兒玉さんが下田さんの取り組みを “新しい“ と感じているのはそれだけではない。緑肥と呼ばれるイネ科の植物「ソルゴ」を植え、畑に戻して肥料とする。農作物収穫後の食べられない茎や葉も細かく砕いて畑に還す。捨てるものは何もない。すべてを自然の循環に戻していく。従来の農薬や化学肥料に頼らない農法、若い世代の新しい農の在り方に希望を見出している。

 

多世代の輪が広がる

 

 先日、兒玉さんがコスモスの花がらを摘んでいたら、通学途中の中学生が突然話しかけてきた。「私この道、好きなんです。夏はひまわり、秋にはコスモスなど、お花がいつも咲いていて」。開墾前の真っ暗だった道を知り、自らの区画だけでなく農園全体の様々な場所に手をかけてきた兒玉さんにとって、心温まるうれしい言葉だったに違いない。

 

箱庭

切り株アート:小人のおうちや畑の箱庭作成中(農知園提供)

 

 大人と一緒に子どもも楽しめるイベントや体験会も多数企画している。夏はスイカ割り、秋はサツマイモ掘り、銀杏を炒って食べる会も開催した。10月の皆既月食と天王星蝕の折には、天体望遠鏡2台を農園に設置し、視界を遮るものがない絶好のロケーションで442年ぶりの天体ショーを楽しんだ。

 交流サイトのオープンチャット機能を活用した情報交換も活発に行われている。野菜の育ち具合、本日の収穫、採れたて野菜を使った料理など、チャットが行きかう。少し覗かせてもらったが、野菜をふんだんに使った「今日のお料理」の写真を見ているだけでお腹がすいてきた。マルシェやイベントの情報も交流サイトから即時入手できる。

 下田園主に『農知園』の由来はと尋ねると、「『農知園』― 音が幼稚園みたいでしょう。保育園に音が似た『葉育園』も候補だったんですよ。みんな子どもに戻れます」。終始発言が控えめな下田さんから、こんなユーモアある答えが笑顔とともに返ってきた。かつては先生だった下田さん。子どもが好きで農地に来る子どもたちを大切に思っている気持ちが伝わってくる。「子どもにかえる」―大人も子どもも平等ということか! みな大地から学び、その恵みで命をつないでいる。

 

畑は…人が集まれる場所

 

 来年の抱負をたずねると、「さらに植えるものを増やし混植したい」との返答。トマトとバジルを一緒に植えるとお互いの害虫を避けあうという。育ちを助け合う、種類の違う野菜を同じ畝に、一緒に植える。農薬を使わないための一つの知恵。自然の力を借りて育ちを促す。

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 最後に開墾のきっかけを尋ねると「時期が来た」と。教職を辞して4年間、一人で開墾することに焦りはなかったですか? と問うたら、即答で「全く無かったです。僕が死んでもここは残りますから」。

 「畑とは…人が集まれる場所」。地域に開かれた農園。幼児から70歳代の方まで多世代の交流が自然に生まれる場が、ここにある。大人の、そして子どもの秘密基地でもある向台農知園。ここから何が生まれるのか、何が育っていくのか、これからどう進化していくのか。目が離せない。

 「冬至の夜の収穫祭音楽会」は12月22日(木)午後7時開演。会場はコール田無・多目的ホール(西東京市田無町3-7-2)。料金は、大人前売り2000円、当日2500円、中高生500円、小学生100円、未就学児無料。
(卯野右子)

(注)『向台農知園』は 西東京市向台町1-18-12。2023年2月に 30区画増の予定、利用者募集。年間利用料 1区画(2m×10m) 5万円。問い合わせは、090-3815-2261(下田)

 

【関連情報】
・下田農園(下田将人さん)(西東京市 農のあるまちサイト
・立石一海(オフィシャルサイト

 

卯野右子
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コール田無で「冬至の夜の収穫音楽会」 ジャズ・トリオとフルート奏者迎えて 西東京市の「向台農知園」が1年の恵みに感謝」への2件のフィードバック

  1. 1

    おかげさまで、
    冬至の夜の収穫音楽祭
    たくさんのお客様におこしいただき
    無事に開催することができました。
    ゲストの
    立石一海トリオ様
    百合野由香様
    初めて聴いたジャズに少年が
    「今までで一番いい音楽でした。」と言ってくれました。
    ひばりタイムス様ありがとうございました。

    • 2

      猫只さま、ほんとうに暖かくて楽しいコンサートでしたね。開催までの農園長や猫只さん、愉快な仲間たちの団結力と奮闘ぶりも素晴らしく、こどもたちの活躍も微笑ましかったです。そして立石一海トリオと百合野さんの奏でる音に酔いしれた最高のクリスマスイブでした。向台農知園の農をとおした輪がますます広がっていきますように!

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