江戸東京たてもの園で「下町夕涼み」 「涼」を感じる仕掛けに夏を満喫
小金井公園内の江戸東京たてもの園で8月5日と6日の2日間、「下町夕涼み」の催しが開かれた。今年の夏は猛暑日が続き体調管理にも気を遣う日々が続く中、さまざまな「涼」を感じる仕掛けがあった。冷房が完備してなかったひと昔前、人々はどのように夏を過ごしていたのだろう。
ビジターセンターを抜けてエントランス広場に出ると、朝顔のツルが巻き付いたグリーンゲートが出迎えてくれた。ミストシャワーが吹き出し、中を通る人々にひと時の涼をもたらしていた。自ら切り出した竹で作った楽器で演奏する「東京楽竹団」のまろやかで自然な音色もお祭りのウキウキ感を盛り上げていた。
西のゾーン、農家の「吉野家」では「レコードで聞く怪談の夕べ」が上演された。雰囲気たっぷりの茅葺き民家で聞く怖い話に、背筋が凍るように感じた一瞬があったと想像するが…
子宝湯での「ちびっ子縁日」では、射的やヨーヨー釣りなど、昔の縁日が再現され、懐かしい遊びが楽しめた。入場を待つ親子で長い行列ができていた。
復元建造物の「花市生花店」では、生花で作った髪飾りを販売。浴衣姿の女性の髪を彩っていた。ジブリ映画「千と千尋の神隠し」の釜爺が薬を調合するシーンのモデルとなった「武居三省堂」(文具店)では、昔の文房具を販売。こちらも大人気だった。
「植村邸」では、伝統工芸「つりしのぶ(釣り忍)」の実演と販売が行われた。つりしのぶとは、竹などに苔を巻きつけシノブと呼ばれるシダ植物の根を固定させたもの。軒先につるして涼を呼ぶつりしのぶは、江戸時代から庶民に親しまれた夏の風物詩。宙に浮いてゆれる小さなオアシスに涼しさを感じる。下に風鈴をつけて音色を楽しむこともできる。
当日たてもの園をおかあさんと一緒に訪れていたかんたくん。夏休みの宿題のひとつに風鈴の音を聴くという課題が出たという。ひとつひとつの音をきいて選んだ風鈴を包みからそっと出して見せてくれた。チリリンとひときわ高く響く音色が気に入って宝物となった風鈴。風にゆれて奏でられる音をきくたびに、この日体験した夏を思い出すのだろうか。
かつては、金魚鉢、ガラスの器、江戸切子グラスの透け感や質感を楽しみ、つりしのぶ、簾(すだれ)、蚊帳(かや)、風鈴といった夏仕様の設えを整えた。浴衣・甚平を身に纏い、団扇・扇子で風を起こした。打ち水、行水でさっぱりし、蚊取り線香を炊き、かき氷、スイカ、ラムネ、ところてん、そうめんなど、食した。目で見て、音で、触れて、匂いで、食べてと、五感で夏の「涼」を感じる工夫や知恵がたくさんあった。現代もそうやって夏を楽しんでいる人も少なくないはず。
たてもの園夕涼みは、提灯のあかりや、風鈴の音色など、伝統的な「涼」も感じられるイベントだった。暦の上では立秋を過ぎても暑さは続く。「涼」をいくつか取り入れて、残りの夏を過ごしてみようか。
(卯野右子)(写真:筆者撮影)
【関連情報】
・東京楽竹団(HP、YouTube)
・夜間特別開園 たてもの園 下町夕涼み(2023)(江戸東京たてもの園)
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