西東京市図書館が「地域を知る講演会」開催 江戸時代の田無・保谷の生活にスポット
西東京市図書館は19日、毎年夏恒例の「子どものための地域を知る講演会」として「とびだせ 田無・保谷の村―江戸時代の生活とつながる人々―」を南町の田無公民館で開催した。成蹊中学・高等学校教諭で、西東京市文化財保護審議会委員の行田健晃(ぎょうだ・たけあき)さんが講師を務め、江戸時代の田無・保谷の人々の生き生きとした姿、暮らしを浮き彫りにする話に、子供から大人まで約20人が耳を傾けた。
西東京市は江戸時代には田無・上保谷・下保谷・上保谷新田と4つの村があり、講演では、まず田無村、下保谷村の名主が代官に提出した1843年の記録などを紹介。当時の人口は田無村が264軒、1192人、下保谷村は115軒、535人だった。また、「田無」の地名に表れているように周辺は地層の関係で米がとれないため、年貢も米ではなく金(きん)や銭で納めていた。農業のほか仕事は肥料運びやたきぎとりくらいで、「まずしい村」との表現も。
だが、田無村の農民らが農業だけでなく居酒屋や宿屋、質屋などの商売もしていたこと、農業や養蚕などで年に700両の儲けを出していたことなどを示す記録などもあり、「村の皆が常にまずしいとは言い切れない。お百姓(農民)の生活は一つの村の中で閉じていたわけではない」と行田さんは言う。
◆ 村を「とびだす」商売・旅行・引っ越し
そして講演のテーマである「村をとびだす」事例として、商売や旅行、引っ越しなどの実態について解説した。旅行は近場では玉川上水、小金井桜での花見や、遠方では富士登山やお伊勢参りなどで、当時の観光ガイドともいえる「伊勢参宮名所図会」の実物なども示しながら、旅行ルートや参加者名簿、費用などを古文書などからたどり、「皆でお金を出し合って行くのが旅行。そのための組織として講(こう)があり、富士講、伊勢講などと呼ばれた」。
1860年6月の富士登山では、上保谷村、田無村など12村から79人が参加し、参加者の名前も記録されている。お伊勢参りは約1カ月の大旅行で行きの道のりと泊まった場所・日付の記録も残っている。
村をとびだす原因として結婚や養子のための引っ越しもあった。その際には元いた村の名主が「人別送り」という書状を書き、移動する人の名前・性別・年齢・移動年月・元の村・移動先の村・移動理由を移動先の村に通知。移動先の村では人別送りの内容を「人別帳」に写していたが、たとえば1852年2月に結婚で西窪村から関前村に引っ越した「さよ(27才)」の人別送りの内容と18年後の関前村の人別帳の内容では年齢や結婚時期、元の村、夫の名前が違っていて、「意外と適当。それでもあまり問題にならない社会だった」。
村をとびだすもうひとつの原因として離婚にもふれ、下保谷村の文五郎からとくに出された「三行半」と呼ばれる離縁状の内容も紹介され、参加者は興味深く、文書に見入っていた。
◆ 学校の勉強より面白い
講演では、地域に残る古文書などから、具体的な人名や動向、エピソードなどが紹介され、「古文書を読むと、村の生活や、お百姓一人一人の姿が目の前に飛び出すように浮かんできて、名もなき人々も力強く確かに生きていたことが実感できる。それが歴史を勉強することの面白さ」と行田さんは結んだ。
講演後、田無町の中学1年男子生徒に話を聞くと、「自分の住んでいる地域の歴史を調べるという夏休みの課題の参考にと思い、参加しました。歴史はあまり得意ではないけど、学校の勉強より一歩踏み込んだ江戸のことがわかり、歴史の楽しみ方、面白さを知ることができてよかった」。一緒に参加した母親も「資料に基づいて具体的に個人個人の名前や背景を聞くと面白い。勉強というよりドキュメンタリーを見ているみたいで楽しかった」と話した。
◆ 講師自ら発案した夏休み恒例企画
講師を務めた行田さんは東久留米出身の30歳。成蹊中学・高校教諭のほか、江戸時代に田無村の名主だった下田半兵衛を中心とした郷土史の研究でも活躍している。この「子どものための地域を知る講演会」は2017年に始まり今年で5回目(コロナ禍で20、21年は休み)だが、大学卒論、大学院修士論文執筆の際、西東京市図書館を通じて地域の古文書を研究した縁で、自ら図書館に「子供向けなど地元に還元できる講演をやりたい」と提案してスタート。毎年夏休みに開催されている。大学院時代の恩師の「歴史の研究成果は地域に返してこそ」という教えを胸に、「続けることに意味があるので、10年はやりたい」と張り切っている。
(倉野武)
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たのしく拝見いたしました
中山様 記事のご感想、ありがとうございます。個人的にも田無・保谷の歴史は興味深く、今後も取材していきたいと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。