西東京市のヒートアイランドと水害を考える 保谷の床上浸水体験に関心も 西東京市図書館が講演会
台風やゲリラ豪雨などで水害の不安も高まるなか、西東京市図書館による講演会「西東京市の自然地理 都市水害とヒートアイランド」が9月2日、柳沢公民館で開かれた。講師の原芳生・大正大学名誉教授は1950年代から長く旧保谷町・市に住み、自宅が床上浸水の被害に遭ったことも。講演会では当時の体験話も披露され、参加者が聞き入った。
◆ 田無駅周辺と郊外で5~6度の気温差も
原さんは自然環境の地域的差異について考える自然地理学が専門。田無市史の編纂のため市内の気候調査も行った。この日の講演では、まず気候調査について説明された。
気候調査は昭和63年2月から1年間、季節ごとに市内20~30カ所の観測地点で行われた。その結果、田無市でもヒートアイランド現象が見られたという。ヒートアイランド現象は都市の中心部の気温が郊外に比べて高くなる現象。大気が熱によって汚染される環境問題とされている。原因は、活発な人間活動が熱を多く出すとともに、その熱を逃さないようにする都市構造などで、調査当時、西武新宿線・田無駅周辺は人口、建物が増えて街並みができ、青梅街道などの交通量も増えたことで都市化。このため建物が少なく、畑など地表面が現れている向台や西原などの郊外と気温差は2度以上あったという。
同現象は人口が大きいほど強く出る。調査当時の田無市の人口は7万人、現在の西東京市は約20万人。田無駅のほか、ひばりヶ丘、保谷の駅周辺の状況を考えれば、「5~6度の気温差が出てもおかしくない」と原さんは指摘した。
◆ 内陸部でゲリラ豪雨が起こるわけ
さらに、話はヒートアイランド現象と密接なゲリラ豪雨のメカニズムに。ゲリラ豪雨は東京の場合、「ヒートアイランドに海からの風が吹き込み、スポット的に積乱雲が発達」することで発生する。1999年7月の練馬豪雨、2005年9月の杉並豪雨など、東京の内陸部は東京湾、相模湾、鹿島灘の3方向から風が集まり、都心の温まった空気が運ばれて上昇気流が発達しやすいという。
ゲリラ豪雨などによる水害は、地形によるところも大きいため、原さんは西東京市の地形についても言及。「市内の標高は南西部が高く、北東部が低い。最も高い芝久保3丁目と最も低い下保谷3丁目では標高差は約20メートルになる」という。また、石神井川などの谷となる部分や、散在する窪地などについても説明。西東京市が作成し、会場で配布された「浸水ハザードマップ」も見ながら浸水の危険性などにふれた。
◆ ハザードマップの活用を
このハザードマップは令和4年8月改訂版で、国が定める基準の値(総雨量690ミリメートル、時間最大雨量153ミリメートル)が西東京市域に降った場合を想定し作成された。予想される浸水区域や浸水深、避難所、避難行動判定フローなど、裏面には警戒レベルや西東京市のタイムライン(事前防災行動計画)、非常時の備えなどの情報が掲載されている。ハザードマップを見たことがある人の被害は、そうでない人より程度が軽いという報告もあるという。
西東京市周辺で1970年代に多かった水害は、河川改修などの整備で80年代には減ったが、近年雨がひどくなり、備えも必要だと強調した。
講演会では、原さんが1966年に上保谷(現中町)の自宅が床上浸水となった水害の体験談も語られた。川のそばの、もともと低い地域で、梅雨の集中豪雨によるものだったという。
「家は道路からは高くなっていたが、晩御飯を食べてテレビを見ていたら、掘りごたつの中に何かが落ちてポチャ~ンと音が…。庭を見たら水が高くなっていて、浸水と分かった。すぐに畳を机やいすの上に上げたり、本棚や食器棚の下のものをどかしたりしたので濡れずに済んだが、その後1カ月ぐらいは家でもサンダルをはいて生活。床板をはがして湿気をとるなどして時間がかかった。今となってはいい経験だが、当時は驚いた」
こう振り返った原さんは、「ハザードマップをきちんと活用すること。さらに周囲の景観・地形などを日常的に観察・理解することで、住んでいるところは安全か、避難するべきか、避難するなら、いつ、どこに行くかを考えておいてほしい」と付け加えた。
講演会後、参加した市内の60歳女性は「私も床上浸水の経験があったので、畳を上げたとか自分の思い出を重ねられてよかった」と振り返りつつ、「ゲリラ豪雨などニュースで聞いていても、どう起こるのか、どう影響するのかぼんやりだった。話を聞き、歴史的なことも含めてよくわかりました」と話していた。
(倉野武)
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