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みることからはじめよう  アートと科学は似ているかな? 多摩六都科学館で対話型のアート鑑賞ワークショップ

投稿者: カテゴリー: 文化 オン 2023年1月28日

 多摩六都科学館で昨年12月17日 、対話型のアート鑑賞ワークショップが開かれた。科学館の魅力を知ってもらおうと、構成5市とともに数多く企画されたイベントの一つで、同館、西東京市、市民ボランティア団体「アートみーる」の共催。アートみーるは市内の小学校で対話型の鑑賞授業をサポートする他、地域の活動も続け、今回はメンバーがファシリテーターを務めた。

 対話型アート鑑賞は、講師が一方的に知識を授けるのではなく、参加者と対話しながら、作品を見て気がついたこと、感じたことを共有しあう鑑賞スタイル。団体名の “みーる” には “よくみる” のほか、英語のミール (Meal)=食事という意味もある。食事が体の栄養となるように、アートを“よく味わって”心の栄養にしてもらいたいとの願いが込められている。

 アートと科学は一見相いれない組み合わせと感じる読者もいるかもしれない。アートみーるのメンバーは科学に詳しいわけではない。科学館という場所でアート系の私たちに何ができるのか? という問いから始まり、「アートをよくみる」ということは「よく観察する」という科学の土台と共通し、つながるのではないかと考えプログラムを作成した。

 アートも科学も、よくみることからはじまる。本記事の表題どおり、ワークショップのタイトルにもなった。当日午前は10人6組、午後は7人4組の親子や夫婦の参加者を迎えた。60分のプログラム内容は、アイスブレーク、対話型鑑賞、振り返りの3段構え。

 ワークショップという場に慣れ、また見知らぬ参加者同士に打ち解けてもらうためのアイスブレークとして、まずは数人のグループに分かれて自己紹介から始めた。「今日の気分はどんな感じ?」「どれか気になるカードはありますか?」との問いに、ボードの上に広げたカードを一枚選び、自分について簡単に話す。用意したのは、アートみーるが通常使うはがき大のアートカードに、科学館内で撮影した写真を混ぜ込んだもの。アートと科学の両方の要素を盛り込んだ。

 

カードでアイスブレイク

アートと科学のカードで共通点探しをする参加者(西東京市提供)

 

 知っている作品や見たことのあるカードを選ぶ参加者、その日の気分に近い色が使われたカードを選ぶ人、少し硬かった表情がやわらいでいく。同じカードは1枚もない中から、共通点を見つけていく場面では、笑い声や歓声が起こるチームもあった。

 形が似てるね! 使われている色が同じ。描かれた時代が近いのでは? 場所はどう? モチーフは? 背景はどんな感じ? 具象画それとも抽象画? 共通点探しは作品を鑑賞する視点を獲得していく作業でもある。絵をみる準備体操を十分行ったうえで、対話型鑑賞に進む。

 モニターから大きく映し出されたのは古賀春江の「海」(1929年)。昭和初期の近代化が進む時代、生物と機械、自然と人工、新と旧など対極のモチーフが描かれた不思議な作品だ。作品選びはメンバーで何度も模擬鑑賞を行い、どんな作品が今回のプログラムの意図に沿ったものであるか検証した。アートと科学の要素が多数含まれていることで「海」を採用した。

 午前は親子の参加者を大人とこどもを分けたチーム編成。こどもには保護者から自立し大人の目を気にせず鑑賞してもらいたい、また大人はこどもの発言を気にせず自身がみるという行為に集中し楽しんでもらえたらとの意図があった。

 小学生チームは、次々と気が付いたことを発言。魚や鳥、飛行船や潜水艦、描かれている細部にまで発言が及ぶ。全員違う学校で初対面だったが、すぐに打ち解け、同学年という連帯まで生まれていた。アートが真ん中にあることで、人と人とのつながりがすっと生まれる場面を目撃した。

 

発言する子どもたち

こどもたちから次々と発言があり途切れない(筆者撮影)

 

 大人チームも負けてはいない。知識を手繰り寄せ絵画と関連づけたり、絵からうける印象を丁寧に言葉にしたりしていた。同時に、部屋の反対側で鑑賞しているこどもたちの様子が気になったか、または声が漏れ聞こえてきたのか、大人の発言がこどもチームの発言に引っ張られるなどの場面も見られた。

 午後は大人とこども一緒のチームでの鑑賞に変更した。絵の中に、垂直と水平、内と外、明と暗などを感じ、コラージュ(違う素材を切って貼る手法)なのではという発言もあった。物の向きや視線から過去と未来といった時間の幅をも読み取る参加者ら。その流れをうけて、どのような未来に向かうのかを暗示した絵と解釈した中学生の発言に、大人からの「なるほど! そういう見方もあるのか!」との驚きの声もあがっていた。

 大人がこどもの視野を広げる場面と、こどもの発想力が大人に影響を及ぼす場面、幅広い年代が一緒に鑑賞することのよさが見られた。お互いのやりとりで見方が深まっていく様子に触れられた時間でもあった。

 振り返りでは多様な感想があがった。こどもからは、「アートっていろいろな考え方があるんだなと思った」「見たものを自分がどう感じているかを言葉にすることを楽しめた」「最初に見た絵と他の人の意見を聞いた後では絵の見えかたが変わった」など。

 大人からは、「他の参加者から良い意見がたくさん聞けた。それを聞いて自分の絵の見え方が変わってゆくのが面白かった」とこどもと同様の感想もあった。「作品鑑賞の時、たまにこどもたちの声が聞こえてきてすごいなぁと思った」「大人は考えすぎてしまうが、こどもは自由な考え方でいいと思った」などの声もあがっていた。こどもの柔軟性をうらやましく感じ、先入観なく作品をみる事も出来きるのだと、大人がこどもから教わっていた。

 プログラムの終了時に、科学館内を撮影しアイスブレークで使用した科学カードをお土産に渡した。こどもたちは好きなカードを選び、うれしそうに持ち帰った。こどもがカードの展示場所を大人に知らせるなど、親子間のコミュニケーションも生まれていた。

 

カード

お土産にしたカード:科学館内のどの部屋に展示されているかな?(筆者撮影)

 

 アート作品の鑑賞から発見したこと感じたことを他者と共有する。観察から得た気づきや発見を体感し、共有することで新たな視点や多様な見方の楽しさを知る。そこからプログラム後の科学館内の鑑賞体験や他者とのコミュニケーションがより豊かなものにつながっていけばとの期待もあったがどうだっただろうか。

「よくみる」ということはシンプルだが、学校での勉強だけでなく、仕事や対人関係、生活のさまざまな場面で生かせる大切なことと改めて実感する。アートと科学は遠く隔たったものではないし垣根もないのだろう。文系・理系と分けているのは大人の概念。相手の欠点には片目を閉じよという格言もあるが、こどものような曇りのない目でよくみるということも今こそ大事と感じた。
(卯野右子)

 

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卯野右子
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