ツタンカーメン展

古代エジプト王ツタンカーメンの生と死 3300年前の Wow!ワンダーに迫る 角川武蔵野ミュージアムの「体感型古代エジプト展」

投稿者: カテゴリー: 文化 オン 2023年7月5日

 埼玉県所沢市の角川武蔵野ミュージアムで「体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春」が7月1日(土)から始まった。「黄金のマスク」で有名なツタンカーメンの物語に迫る展示構成だ。

 

古代エジプト展

「アヌビス神像付き厨子」金狼犬であるアヌビス神が厨子を守る

 

 英国の考古学者ハワード・カーターが、1922年11月4日に王家の谷で王墓を発見したことをきっかけに、古代エジプト王(ファラオ)の中でも一躍有名となったツタンカーメン。以来、黄金のマスクを着けた少年王のミイラに、多くの人が魅了され想像力をかき立てられてきた。

 昨年2022年はハワード・カーターが王墓を発見してから100年。5年にわたる発掘調査の末、諦めかけていたカーターがついに王墓を見つけた時の興奮と感動を「序章」で再現。来場者は100年前のツタンカーメン発見の現場へ、さらにその先の古代エジプトワールドにタイムトラベルできる展示内容となっている。

 

ツタンカーメン展

展示会場を入ってすぐのエリアは、王墓内部を再現。鑑賞者みずからがまるで墓の中に入っていくような臨場感ある演出

 

 本展の大きな特徴は、ツタンカーメンの王墓に収められていた副葬品のうち約130点を精巧に再現した「超複製品(スーパーレプリカ)」による展示だ。本物の発掘品や美術品はない。本物が一点もない展覧会は成立するのか? と筆者も半信半疑だったが、そんな疑問も忘れるほどに充実した内容だった。

 監修を担った河江肖剰(かわえゆきのり)氏(エジプト考古学者/名古屋大学高等研究院准教授)も、依頼を受けた当初は「レプリカかよ!」と驚いたそうだ。しかし世界に3セットしかない「超複製品(スーパーレプリカ)」の再現力は見事と言う。

 

玉座

黄金の玉座(左)の隣には王妃の木製の椅子(右)。王座の背にはツタンカーメンに香油を塗る王妃の姿が描かれている。椅子のひじ掛けには生まれつき左足が悪かった王が使ったとされる杖も展示。王墓から発掘された130本のうちの一本

河江肖剰

河江肖剰氏

 ツタンカーメンの財宝は「門外不出」、本物を見るにはエジプトに行くしかない。レプリカだが「エジプトに行かなくても、武蔵野で鑑賞できる!」(河江氏)“レプリカだからこそできた” 創意あふれる展示、近寄って細部まで観察できる贅沢な展覧会だ。

 コンセプトは「HISTORYはSTORYだ!」歴史(HISTORY)の中には物語(STORY)があるという考え。ツタンカーメンは、父・アクエンアテンの後をわずか9歳で継ぎ、19歳で亡くなったとされている。3300年以上前の古代エジプト第18王朝、悲劇の少年王の短い生涯は一体どのようなものだったのか。

 

第2の棺

黄金の棺を守る第2の棺

 

 読者は15歳だった時のことを覚えているだろう。考えてみてほしい。10代で王としての責務を果たすとはどういうことかを。戦地に赴き陣頭指揮を執るということを。19歳で死を迎えるということを。想像してみてほしい。ツタンカーメがどのように暮らし、どんな人生を送ったのかを。

 

戦車

儀式用チャリオット:実際に使われたかは不明だが、若き王が乗ったとされる戦車の再現も精緻

 

 「序章」に続く「ツタンカーメンの青春」、「古代エジプトの死生観とミイラ」、「古代の神聖な文字ヒエログリフ」、「古代エジプトの信仰」の各章も驚きの連続だった。キャプションは最小限。知識よりも感じる体験を大事にしてもらいたいからだ。

 ワンダー(不思議)や感動を体感し、興味をもちみずから調べてみたい、と思ってもらえたら、それは考古学への入り口につながると河江氏は期待している。歴史上の人物として、遥か昔の遠い存在であるツタンカーメンを生身の人間と感じ、その時代に彼がどう生きたかに思いを馳せる。特に、今、青春真っ只中にいる中学生、高校生にも味わってもらえたらとの想いが滲む。

 

古代エジプト展

古代エジプトの象形文字ヒエログリフは、記すと力を持つとされ現実になると信じられていた。例えば黄金のマスクには、死者を復活させる「魔法のミイラマスクの呪文」の中に、死者が神の庇護を受けることを保証する方法が説明されている

 

 会場真ん中の大空間では巨大スクリーンの壁面と床面にプロジェクションマッピンクを投影する。古代エジプトの創生から神々の変遷をたどり、ツタンカーメンの生涯を五感で感じる約10分間のデジタルコンテンツ映像だ。

 

古代エジプト展

投影されたプロジェクションマップのひとコマ

 

 加えて、「ワールド・スキャン・プロジェクト」(*リンク参照)の最新技術による高精細3Dでツタンカーメンのマスクや厨子といった副葬品をエジプトでスキャンした。そのデータから本展覧会のために作成された約20分の映像コンテンツがデジタル展示される。来場者はそれらをNFTアートとして持ち帰ることもできる。NFTアートとは、NFT(代替不可能なトークン)の技術を活用することで、「唯一無二」の作品として証明できるデジタルアート。最先端のテクノロジーによって2017年から偽造が不可能な鑑定書と所有証明書が付いたデジタルアート作品を売買・所有することができるようになった。

 

黄金の棺

ツタンカーメン王のミイラは110kgの金の棺の中に、その棺は一回り大きな棺にと、何重もの棺と厨子に保護されていた

古代エジプト展

棺はさらに4つの厨子に収蔵されていた。棺と厨子が縦一列にずらりと並ぶ独自の展示は圧巻

 

 HISTORYにはもう一つHIS(彼の)も含まれる。河江氏は発掘および研究に携わり、エジプトにも長く居住し本物をたくさん見てきた。展示の監修において、ツタンカーメンのHIS STORYに加わる新たな発見はあったのか? と問うた。

 「知識として知っていた様々な事柄、例えば、ハワード・カーターが王墓を発見した時の驚きの瞬間や、ツタンカーメンが経験した宗教改革の大混乱の時代が、よりリアルな感覚として実感できた」と返ってきた。ツタンカーメンの物語が、河江氏の物語として語られた。HIS STORYがMY STORYとして。

 

父アクエンアテンは多神教から太陽円盤の神を崇める一神教へ宗教改革を断行したが、大衆から支持を得られず、王を継いだツタンカーメンにより国は多神教に戻された

 

 HISTORYから何を学ぶか。それは知識のみならず、感覚を伴ってこれだ! と感じる体験をどれだけ積み重ねられるのかに依るのかもしれない。自分だったらどうしたか? 自分だったらどう生きたか? と自分に引き付けて考える、自分事として捉える。するとHISTORYが立ち上がり迫ってくる。

 ツタンカーメンの物語 HIS STORYがMY STORYに変わる瞬間を味わってもらいたい。若い人にも、10代の青春期を過ぎた大人にもだ。その感動が、HISTORY歴史、地理、言語、建築、信仰、民族、デジタル…さまざまな世界への入り口につながるはずだ。本物が一点もなくとも、驚きと興奮の連続の展示であることに間違いはない。
(卯野右子)

 

【関連情報】
●「体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春」(角川武蔵野ミュージアム
 2023年7月1日(土)から11月20日(月)まで。
 序章 ツタンカーメンの王墓(Introduction: The Royal Tomb of Tutankhamen)
 第1章 ツタンカーメンの青春(Chapter 1: Tutankhamen’s Youth)
 第2章 古代エジプトの死生観とミイラ(Chapter 2: Views of Life and Death and Mummies in Ancient Egypt)
 第3章 古代の神聖な文字ヒエログリフ(Chapter 3: Hieroglyphs: Ancient Sacred Letters)
 第4章 古代エジプトの信仰(Chapter 4: Religion in Ancient Egypt)
●「神秘のミステリー! 文明の謎に迫る 古代エジプトの教科書」展(角川武蔵野ミュージアム
 4階エディットアンドアートギャラリーで7月23日(日)から11月20日(月)まで
ワールド・スキャン・プロジェクト

 

卯野右子
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