まちライブラリー@MUFG PARK でオープンイベント 本や思い出の品を持ち寄り「植本祭・植宝祭」で交流

投稿者: カテゴリー: 暮らし文化 オン 2023年7月30日

 7月22日(土)まちライブラリー@MUFG PARKでオープン記念イベントが開かれた。「植本祭・植宝祭」と名付けられたこのイベントは「みんなでライブラリーを作り育てる」ためのお祭りだ。イチオシの本を持ち寄り交流し寄贈する「植本祭」。思い出の品を本箱につめて飾る「植宝祭」。参加者約60人を迎え、ビジュアリスト手塚眞氏の講演、手塚氏とまちライブラリー提唱者の磯井純充氏によるトークセッションも行われた。

 

まちライブラリー

手塚眞氏の話に聞き入る参加者(写真 まちライブラリー@MUFG PARK提供)

 

 交流会に先立って行われた手塚眞氏の講演「命の記憶―未来へのメッセージ」は、集った人々に勇気と希望を与える内容だった。手塚氏は「鉄腕アトム」などで有名な手塚治虫氏の長男で、高校時代に映画作りをはじめ、ベネチア国際映画祭デジタル・アワードなどを受賞している。

 医師を目指していた手塚治虫氏が漫画の道を選んだ経緯、「ジャングル大帝」のライオンが何故白色になったのかなど、興味深いエピソードが飛び出す。手塚眞氏が映画の世界に入ったきっかけや、磯井氏との出会いのエピソードなども織り交ぜて、聴衆の注意をひと時もはなさない。

 「『命の記憶』とは、その人の人生、やってきたこと、在り方、一人ひとりのたくさんの命の記憶だ。記憶である過去をみなおすことは未来につながっていく。過去の記憶は未来へのメッセージなのだ」と手塚氏は語った。

 図書館や本屋は、読みたい本を手に入れる場所として機能しているが、そこには必ず「自分へのメッセ―ジ」があるという。先人たちが発見したこと、一人ひとりの人生の記憶、本にはその命の記憶が刻まれている。タイトルかもしれないし、とある一節かもしれない。表紙に書かれた文字や、挿画かもしれない。そこには必ず未来へのメッセージがある、というのだ。手塚氏はそのメッセージを探しに本屋に出かけると話した。

 また、本を選ぶ、それは、日々様々な選択の中で何かを選ぶことのひとつ。偶然とも思える出会いに未来への重要なヒントがあり、選択によって未来が築かれていく。

 図書館に行くということも選択のひとつ。そこで出会う人や本に、未来へのメッセージがあるはず。それをどう受け取っていくのか。偶然の出会いを大事にし、ピンとくることや直感を信じて、自らの行動や進む道を選んでいく。

 そんな選択をした人々が居合わせる図書館・ライブラリーという場所がいかに特別な場所であるか、が語られた。

 講演会の後に行われた交流会のひとつ、植本祭は、参加者が本を持ち寄り、交流し、本をライブラリーに寄贈するイベントだ。参加者はグループに分かれ9人「カタリスト」が選んだテーマに沿って語りあった。カタリストとは化学用語の「触媒」を意味する。イベント当日は見知らぬ同士が話し合う場。緊張をほぐし、人と人をつないで化学反応を起こす役割を担う人々をカタリストと呼んだ。

 

まちライブラリー

植本祭で寄贈された本を並べオリジナルの本棚に(写真 筆者撮影)

 カタリストが選んだテーマは、家族との思い出、骨盤ケア、清潔でシンプルなトイレ、大事にしたいこと、50年後も読みたい絵本、コーヒーから考える世界、思い込みを手放す方法など、バライエティに富むラインアップ。屋外に出てパラリンピックの正式種目ボッチャを体験できるものまであった。

 植宝祭では、壁面は全長35m、高さ3m以上ある本棚を利用し、上部に「まちライブラリータイムカプセル本箱」を並べる構想を実現した。「未来に届けたい大切な思い出―タイムカプセルをつくろう―」をテーマに、本型のタイムカプセルに思い出を詰めて、本棚に所蔵する。

 本に見立てた専用の箱の中に、「子どもの成長記録」「コンサートのチケットや映画チケットの半券」「未来への手紙」など、その人にとっての「宝物」である「生活(いとなみ)の記憶」をつめて飾る。今を生きる人たちの目線から集まる記録を残す試みだ。

 本棚にディスプレイした後、それぞれが設定した期間が過ぎたら開封する仕組み。何を入れるかは自由だ。未来の自分や大切な誰かに、時を超えて今の想いを届ける。

 

まちライブラリー

色とりどりのタイムカプセルにつめて未来に届けたいものは何ですか?(写真 筆者提供)

 

 手塚氏は、2022年のスケジュールがびっしりと書き込まれた手帳と、様々な人々の連絡先および彼らとのやりとりが記録された今は使っていない携帯電話、制作した映画のちらしなどをタイムカプセルに「植宝」していた。

 

植宝際

タイムカプセルにいれる携帯電話(一台は「ガラケー」)を見せる手塚氏。50年後にガラケーという呼び名は通じるのか?(写真まちライブラリー@MUFG提供)

 

 交流会では、筆者もカタリストとして「アートdeおしゃべり」というお題で場を開いた。本のイベントでアートに特化したテーマに果たして人が集まるのだろうかという思いもあったが、幸いにも本好き・アート好きの4人が集った。

 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の絵本を2冊紹介した。小林俊也の版画本と、山村浩二のイラスト本(アーサー・ビナード英訳つき)で、同じ詩にテイストの違った挿画の絵本を見比べて感想をおしゃべりした。ゴッホや藤田嗣治の自画像を見比べ、自画像から受ける印象、画風の違い、筆致や色づかい、背景など細部にも注目して対話した。画家の生涯と照らし合わせての鑑賞も興味深かった。

 

カタリスト

参加者らと鑑賞したゴッホの自画像の一枚 (写真 筆者提供)

 参加者はみな本とアートへの関心が高く、展覧会や全国の希少な本屋さんの情報交換も活発だった。参加者同士の交流というひとつの目的に貢献できたかなと思う。イベント終了後も、片付けに入ろうかという時間まで対話を続けていた参加者の姿が目に焼き付いている。

 図書館は、先人たちの命、生きてきた記憶が詰まった場所。そこには私たちの未来へのメッセージが必ずある。手に取った本、出合った人々、一瞬一瞬の選択が私たちの未来をつくっている!

 まさに人と本との出会い、人と場所との出会い、人と人との命の出会い。そんな場をここにつくってくれた人々、ここに居ることを選んだ人々との一緒の時間に、手塚氏の講演のメッセージが重なり、胸があつくなった。

 まちライブラリー@MUFG PARKの蔵書数は、全国から寄贈されたものを含め現在9,000冊超。15,000冊まで所蔵できるという。自分が寄贈した本があれば、ライブラリーをより身近に感じ、わがまちのライブラリーと自慢したくなるに違いない。どこまで育っていくのか、どんな交流が生まれるのか、楽しみだ。

 スタッフの話しによると、まちライブラリーは今も増え続けており、7月末現在で登録数1,050を超えているという。10月21日(土)にはマイクロ・ライブラリーサミット2023(小さな図書館全国大会)も開催される予定。各地で小さな図書館を運営している個人や団体が、日ごろの活動について発表しあい、思いや悩みを共有する会。東京、北海道、大阪の3カ所をつなぐ。

 いつ訪れてもまちライブラリー@MUFG PARKのスタッフは、お目当ての本探しや備品の使い方など、気持ちよく対応してくれる。未来へのメッセージを探しに、本屋に、ライブラリーに出かけよう。

 

まちライブラリー

涼しくなった夕刻に芝生に寝転び空を見上げるのもひとつの選択(写真 筆者提供)

(卯野右子)

 

【関連情報】
・まちライブラリー@MUFG PARK(HP
・リブライズ(蔵書と貸し出し本が検索できるサイト
・マイクロ・ライブラリーサミット(小さな図書館全国大会)2023 開催(まちライブラリー
・MUFG PARK(HP

 

卯野右子
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