北多摩戦後クロニクル 第33回
1986年 西武新宿線田無駅で追突事故 大雪のためブレーキ利かず204人負傷

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2023年8月22日

 1986(昭和61)年3月23日午後零時10分ごろ、田無市(現西東京市)本町の西武新宿線田無駅1番ホームで、停車中の上り準急電車に急行電車が追突し、乗客計204人が重軽傷を負った。

 

追突事故

追突による衝撃で上下にずれた車両(提供:YouTube「もち録」)

 

 南岸低気圧の影響で東京も予想を超える大雪となり、急行電車のブレーキが利かずに約25キロのスピードで追突した。準急電車は約10分遅れていた上にパンタグラフに積もった雪の重みで通電が悪くなり、雪を取り除く作業中だった。急行電車の運転士は駅の約300メートル手前で赤信号に気付き慌てて急ブレーキをかけたものの、積雪によるスリップと緩い下り勾配だったため利きが悪かったという。

 

大混乱の田無駅

 

 春の彼岸に当たっており、沿線の小平霊園に墓参した帰りの人も多かった。双方いずれも8両編成の電車には約1400人の乗客がいたが、衝突の衝撃で倒れたり座席から投げ出されたりしてのけが人が続出、大混乱となった。大雪のため周辺の道路もマヒ状態で、広範囲の消防から出動した救急車の到着が遅れ、搬送先の病院もなかなか調整がつかなかった。

 東京都心の積雪は9センチと観測されたが、当時のニュース映像などを見ると十数センチは積もっているように見え、駅構内や周辺は搬送を待ったり家に連絡を取ろうとしたりする被害者であふれ、警官、駅員、報道陣が慌ただしく行きかって事故の重大性を物語った。不幸中の幸いで死者は出なかった。

 

田無駅周辺

救急車の出動などで込み合う田無駅周辺(提供:こうやま氏)

現在の田無駅1、2番線ホーム

現在の田無駅1、2番線ホーム

 

安全対策の原点に

 

 西武鉄道はこの事故にショックを受け、詳しい原因究明と再発防止策に全力を挙げた。同社によると信号システムや車両改良などハード面の対策の結果、大雪による事故はその後起きていないという。

 また2009年からは3月23日を「輸送の安全を考える日」に指定し、安全輸送に対する社会的使命への意識を高める日としたほか、この日を含む1週間を「安全輸送推進週間」として各種の取り組みを実施している。東村山市秋津町の西武研修センター内では田無事故をはじめとしたさまざまな電車事故の事例を展示し、職員教育に活用している。

 

西部研修センター

西部研修センター(東村山市秋津町)

 2016年8月22日には台風9号による大雨の影響で、東村山市廻田町の西武多摩湖線で沿線の土砂が崩れて電柱が倒れ電車に接触した。乗客6人にけがはなかったが、最後尾の車輪がレールから浮き上がるなどして運行ができなくなった。運転再開まで半月を要し、あらためて自然災害への備えが重要なことを示した。

 

ホーム、踏切の事故防止を目指して

 

 同社は毎年「安全・環境報告書」を発表して現状の分析と取り組みをまとめている。2023年版によると、22年度に起きた鉄道運転事故(脱線や踏切事故など)は12件、輸送障害(自殺による人身事故などで30分以上の遅れや運休)は64件だった。広報部は「ハードの不備による事故、トラブルは明らかに減っている。その一方で踏切での事故や、ホーム上、車内でのトラブルなどが目立っており今後の課題と言える」と話している。

 事故防止には利用者の側の注意やモラルの向上も求められる一方、社会の高齢化や障害を持つ人の利用が増えていることへの対応が遅れていることを踏まえて、通行量の多い踏切の解消や駅ホームのさらなる改良も急がれる。

 西武鉄道はハード面でのホーム上の安全対策としてホームドアの整備、点状ブロックの整備、ホーム隙間転落検知システムの導入―を進めている。また踏切事故防止のためのさまざまな設備を強化する一方で、できる限りの踏切解消を目的に新宿線の連続立体化事業が進行中。新宿区・中井駅から中野区・野方駅間は地下化して7カ所の踏切を解消、東村山駅の前後で府中街道などと交差する2.3キロは高架化して5カ所の踏切がなくなる予定だ。

 また杉並区・井荻駅から西東京市・東伏見駅間5.1キロの高架化により19踏切を解消する事業計画も進んでいる。

 

西武新宿線の連続立体事業工事現場(東村山駅南側)

西武新宿線の連続立体事業工事現場(東村山駅南側)

(飯岡志郎)

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【主な参考資料】
・西武鉄道「安全・環境報告書2023」
・田無駅【事故】西武線Railroad Accidents in Japan in 1986 雪 昭和のTV中継(YouTube「もち録」)
・特別掲載:1986年3月23日田無追突事故(こうやまのほをむべゐぢ

 

飯岡 志郎
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