市内のパブリックアートで対話を楽しむ アートを通して人を知り、人を通してアートを見る
普段何気なく見過ごしている街の風景。こんなところにアート作品が? 駅前広場や公園に置かれた彫刻に突然気がついた経験をお持ちの方もいるのではないだろうか。美術館やギャラリーでなく、道路や公園など公共の空間に設置されている芸術作品をパブリックアートという。(写真は、大隅秀雄 《INERTIA(イナーシャ)》 - 風の力や動力を使って動く彫刻 キネティック・アート)
11月23日(祝・火)、西東京市の市民ボランティア「アートみーる」のメンバーが、公募した市民を対象に、西武柳沢駅南口近辺にある7つのパブリックアートを案内した。作品を巡りながら鑑賞し、感じたこと、思ったことを話し合うイベント「街角アートみーる」は、今年3月に第1回目を実施して以来2回目の開催となる。
晴天に恵まれた祝日の朝、パブリックアートを鑑賞する前に、柳沢公民館にてA3判のアートカードを使って対話した。アート作品や彫刻を鑑賞したことがない方のためのウォーミングアップとして、思ったこと感じたことを自由に発言してもらう。
「この中で気になる作品はありますか?」「なにか気が付いたことはある?」。筆者はアートみーるのメンバーとして、Yさんとお母さんのペアを担当した。3枚のカードから気になる作品を選んでもらう。
「白と緑あるから私にはぷっくりした大根に見えるわ」とお母さん。「ここが海みたい」とYさん。「この部分が波打っているから?」と問うと、「海っていう漢字知ってるよ!」「まだ学校で習ってないのに凄いね」。「今、漢字にはまっているんです」とお母さんも我が子の成長ぶりが誇らしそうだ。「ほかに発見はある?」「影が映っているよ。水たまりみたい」「こっちからお日様が当たってるんだね」
作品をみて感じることは人それぞれだ。そこに面白さがある。驚きがある。発見がある。疑問が生まれる。どこからそう思ったのだろうか? 対話を重ねる。室内でおしゃべりを楽しんだ後、屋外にあるパブリックアートの鑑賞に向かった。
「この彫刻からは水が流れていたんですよ」と《廻遊・銀の泉》を指し、彫刻が設置された約30年前の様子を語るお父さん。子どものRさんと一緒に参加した。どれくらいの水量で、どんなふうに水が流れ落ちていたのだろうか? 想像が膨らむ。お父さんが若かった頃の話を、Rさんはどう受け止めただろうか。
お母さんと作品を巡ったUさん。発言は控えめだったが、お母さんが話していることによく耳を傾けていた。初対面同士のグループも対話が盛り上がっていた。それぞれの見方や感じ方が違うことが対話の刺激になっていた。
西東京市(担当:生活文化スポーツ部文化振興課)とアートみーるが主催したこのイベントは、「見知らぬ人との出会いのほか、作品の感想を述べ合うなかで、家族や友人知人ら身近な人たちとのコミュニケーションを深めてもらうチャンスにしてほしい」と企画した。車いすを使う人も受け入れ、やさしい日本語を使うイベントとして、外国人の参加にも配慮し「移動や会話にお手伝いが要る方はお知らせください」と広報した。車いすの方から1人申し込みがあったが、事情により当日は欠席となった。
アートを介することで、よく知っていると思っていた友人や家族の発言に驚かされることもある。そんな風に見えるのか? その感じ方、面白いな! アートを通して人を知り、人を通してアートを見ると、作品がさらに際立って見える。対話が生まれることで、作品を含んだ街の風景もまた違って見えるのかもしれない。
アートみーるのメンバーは、前回より良いプログラムを実施したいと考えてミーティングを重ねた。アイスブレークに使う作品で話は弾むだろうか? グループの人数は適正か? 安全確保は? 本番では公共の場での鑑賞であることから見守りの要員を増やし、横断歩道の両サイドや歩行者道路での自転車とのすれ違い時に声がけするなど各所で参加者の安全を見守った。
今回の実施を踏まえて次回はさらに良いプログラムにしたい。作品についての理解を深め、美術に対して高い意識を持つ方へも満足感のある内容に進化させていきたいとの抱負を胸に、対象者に合わせたプログラムづくりをすでに考え始めている。
(卯野右子)(写真はクレジット付きを除いて筆者撮影)
【関連情報】
・市内のパブリックアートを楽しむ「街角アートみーるVol.2」参加者募集!(西東京市Web リンク切れ)
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