
うつ病治療にクラウドファンディング 国立精神・神経医療研究センターが挑戦
小平市の国立精神・神経医療研究センター(NCNP、中込和幸理事長)は2月1日、コロナ禍によって増加するうつ病の新しい治療法の研究費を得るため、クラウドファンディングを活用すると発表した。支援金で医療機器を購入することで治療時間を大幅に短縮し、新しい治療法をどこでも受けられる医療態勢を目指す。(写真は、国立精神・神経医療研究センター病院)
経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国際調査によると、日本国内のうつ病やうつ状態の人の割合は、2013年調査では7.9%だったが、新型コロナウイルス流行後の2020年には17.3%と倍増した。また年間2万人を超す自殺者の多くがうつ病や双極性障害(躁うつ病)を患っており、国民病とも言われるうつ病対策は社会的な課題となっている。
一方で近年、医療研究に関わる予算や製薬企業などによる奨学寄付金は減額傾向にあり、NCNPはうつ病治療の研究費を確保し、研究の意義と成果を広く伝えるため、初めてクラウドファンディング(CF)に挑戦することにした。
現在のうつ病治療には、抗うつ薬による薬物療法や精神療法に加え、薬物療法などが効かない患者に対して磁気で脳を刺激して活性化させる「rTMS療法」が注目されている。しかし現行の標準治療法では治療に3〜6週間と時間がかかるうえ、保険の適用条件が厳しく、保険診療が行われている病院は全国で20施設ほどに限られている。
こうした課題を克服するため、NCNPは今回のプロジェクトに寄せられた支援金で、rTMS療法ができる磁気刺激装置1台を購入し、治療時間を2週間程度に短縮できる新しい治療法の臨床研究を進める。学術論文発表を経て2023年後半には、改良した新規プロトコル(治療・治験実施計画書)を先進医療として申請する。
rTMS療法の研究で先駆的な役割を果たしてきた鬼頭伸輔精神診療部長は「現在、rTMS療法の保険診療ができる病院は地域的にも偏っており、自主診療で行っている場合は診療所ごとに診療方法がバラバラになっている。研究成果をもとにした新たな統一プロトコルが先進医療として承認されれば、保険診療への道筋が開けて、患者さんや家族だけでなく、診療所の負担が軽減される。将来的には全国どこでもこの治療が受けられるようにしたい」と話す。
CFの公開期間は2月1日〜3月31日で目標金額は1200万円。NCNPと業務提携するCFサービス会社「READY FOR」にとって国立研究機関との契約は初めて。医療系の研究におけるCF活用は急成長しており、2021年では研究系プロジェクトの約60%が医療系となっているという。
READY FORの市川衛基金開発室長 は「社会の格差拡大を背景に日本にも寄付意識の高まりが見られる。研究機関が思いを共にする市民と一緒に研究を進めていく動きが始まりつつある」と話している。
(片岡義博)
【関連情報】
・国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
・うつ病の新しい治療法を届けたい:rTMSの研究で治療の選択肢拡大へ(READYFOR)
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